元部長、デイトレを語る(タカタなど)

 
 
A 「B部長、お久しぶりです、辞められてからもう半年経つんですね。儲かってますか?」
B 「おう、ボチボチだな。久しぶりにキャバでも行こうか?」
A 「あざっす!景気いいんですね。オレ最近そういう所全然行ってないすよ。昔はよくB部長たちに連れてってもらいましたけど、今は誰も行きたがらないんですよ。」
B 「証券会社も変わったよなあ。お行儀が良くなったっていうか、大人しくなったというか。お前が部下だった頃は朝までお姉ちゃんのいる店ハシゴしたりしてたもんなあ。朝会で支店長以下みんな痛風の症状出てたこともあったよな。」
A 「それはそうと、どんな銘柄売り買いしてるんですか?いいネタないですか?」
B 「ここ数日はタカタとかやったな。アレは儲かったよ。」
A  「タカタってここ数日随分上がりましたよね。先週は確か17円くらいだったのに、今日50円まで行ってるじゃないですか。倍じゃきかないですよね?」
B  「いや17円で買ったわけじゃないからw。せいぜい5円抜いたくらいだ。そんなのを何度かやったかな。」
A  「日計ってるんですね。買い持ちしてればボロ儲けなのに。」
B  「潰れた会社を日を跨いで持ち越す度胸はないよ。翌日の寄り付きで売り気配だったらどうすんだ。いずれにしても今月末で上場廃止になるんだからババ抜きなんだよ。」
A  「そもそもオレには潰れた会社買うって発想がなかったですよ。お客さんに言っても分かって貰えないし、実際買ってもらっても10000株くらいでしょう。往復でも貰える手数料4万円程度じゃないですか。それでコンプライアンス部に目をつけられたり、損させて文句言われたりしたら全く割りに合わないですもん。」
B  「だよなあ。今の証券マンには無理な商いだよ。低位株マーケットは個人のデイトレーダーの専用になっちゃってるなあ。そもそもお前ら株をセールスしてんのか?」
A  「恥ずかしながらあんまりしてないですね。公募株の割り当てが降りてくるんでそういうのばっかりですよ。その方が貰える手数料多いですし。」
B 「この前のルネサスは面白い値決めの仕方だったな。結局価格決定日の引値から20%引きだっけ?政府(産業革新機構)の放出玉だし、日本郵政の案件をスムーズにやるためにあんな決め方にしたのかなあ?」
A  「でしょうね。あれでもルネサスは捌くのに結構苦労しましたから。予想外に安く決まったんで、売買開始日にソッコー売ってもらいましたけど。」
B 「ところでお前はまだ会社に居続けるのか?」
A  「B部長みたいに自分で相場張りたいですけどタネ銭が溜まりませんよ。一体いくらあったらいいんですかね?B部長は辞める時2億くらいありましたよね?全部引き出してましたけど。」
B 「お前俺の口座見たのか?まあ社員の口座は支店の端末で見れるからな。」
A 「オレには2億も作れないですよ。どうやったら出来るんですか?」
B 「俺は入社した時からコツコツ申請書書いて支店長に印鑑貰って管理部から承認取って面倒を厭わずに株を買ってたからな。最低3か月は売れないし眠たい取引ばっかりだったよ。今やってる短期売買と比べたらずいぶん長持ちを強いられてたよ。規則だからしょうがないんだけどな。あとけっこう社員持株会も儲かったよ。」
A  「そうなんですか?」
B 「そうだよ。あれ毎月5%補助金つくだろ?配当金も手数料無しで自動買い増しだろ?引き出して売るまで非課税だから複利で考えたらいい利回りだよ。俺は48歳で辞めるまでの5年間は規定上限の月10万円やってたもん。平均買値よりかなり上がったって事もあるけど、持株会の売却だけで4000万近くになったよ。」
A  「マジっすか?オレもすぐやろうっと。でも、それでも先の長い話ですね。今すぐ辞めてデイトレやろうとしたら幾らくらい要りますかね?」
B 「今辞めんなよw。お前は情報源の一つなんだから。まあ500万くらいあればいいんじゃない?」
A  「そんなもん?まあ無いけどw。」
B  「例えば基本日計りだけど、1日通しで1%取ろうとするじゃない?5万円だけと税金は源泉徴収で20.315%だから約4万円だよね。ひと月20営業日として月収80万だろ?年金とかはともかく健康保険料家族分払ってもそこそこ残るだろ。お前、今の年収いくらよ?」
A  「1000万ちょっとですね。月収に均したら80万くらいですけど手取りは当然もっと少ないですね。」
B  「逆算すれば、今の生活を維持するためにはそれくらいがメドじゃない?」
A  「でも毎日キッチリ1%取るって難しくないですか?」
B  「慣れは必要だけどね。少なくとも今の証券マン的な売買感覚じゃ無理だろうよ。ネット証券のド安い手数料体系が前提だしな。それにお前らは『いい株』ばっかり見てるだろ?」
A  「ダメなんですか?」
B  「そうだよ。1年後、1か月後に上がっても意味ないもん。明日上がっても意味ないよ。日計りなんだから。明日上がるかわかんないけど、上がるなら明日上がり出してから買えばいいじゃない?上がりそうになかったら別の銘柄探して買うよ。そうじゃないと資金が寝ちゃう。資本効率が下がるほうが痛いよね。」
A  「だから低位株なんですか?」
B  「そう。お前『値幅制限表』ちゃんと覚えてる?」
A  「恥ずかしながらちゃんと覚えてないですね。たしか前日引値から±いくらってやつですよね?」
B  「ダメなヤツだな。最近の証券マンはこれだよ!
 いいか?前日引値が100円未満は30円、100円以上200円未満は50円、200円以上500円未満は80円、500円以上700円未満は100円、700円以上1000円未満は150円と、あとは東証のHPを見てくれ。
http://www.jpx.co.jp/equities/trading/domestic/06.html
 
 つまり低位株ほどストップ高のパーセンテージのりしろが多いんだ。それから基準値が100円とか200円とかの方が上限までのパーセンテージが高いよな?100円なら150円が上限だけど、99円なら129円までだ。50÷100は50%、30÷99=約30%だな。」
A  「そうか!だからタカタなんかは50円以下だから30円値幅なんですね。もし本当に30円上がったら30円÷45円で+66%じゃないですか。もし10万株も買ってたら1日で450万円が750万円?熱いわ!ヤバ過ぎ!」
B 「飛躍しすぎだって。これは極端な例に過ぎないぞ。実際下がるリスクはそれ以上にあるし、450万円が150万円になる可能性は理論上同じだからな。何度も言うけど月末にはほぼ0円になるんだから。 」
A  「だから日計りするんですね。たしかに明日売り気配のまま引ける可能性だって十分ありますよね。」
B  「そう。だから1円、2円抜きで降りるんだよ。それでも10万、20万は取れるだろ?期待値の方が1日だけに限れば大きいからな。タカタを今弄ってんのはそういうヤツらばっかりだと思うよ。」
A  「そうなんですね。あ、オレそろそろ会社出ないと。電通の一件以来18:30には強制退社なんですよ。」
B 「じゃあ先に店に行っとくわ。銀座ならお前も10分くらいで来れるだろ?」
A  「いや、新宿の方がいいんですけど。」
B 「いや、風呂屋は奢んないよ?」
 
(続く)