昭和飛行機工業へのTOB、売却する三井E&Sの目的は?

2020年1月23日、三井E&S(7003、東1、旧三井造船)子会社昭和飛行機(7404、東2)にベインキャピタルがTOBを実施することを発表しています。TOB価格は2,129円、加えて2月7日基準で特別配当を631円を出すため2,760円が実質的な価格となりました。発表前1月23日の終値は2,537円でしたので、約8%程度のプレミアムになります。

公開買付の期間は2月10日から3月10日までで、代理人は三菱UFJモルスタおよびカブコム証券。全株買付を目指すので昭和飛行機株は上場廃止となる見込みです。

「ビーシーピーイー プラネット ケイマン エルピー(BCPE Planet Cayman, L.P.)による昭和飛行機工業株式会社普通株式に対する公開買付けの開始に関するお知らせ.」

(2020年1月23日 17:20開示)

 

TOB価格2,760円から昭和飛行機の指標を見てみましょう。

EPS(2020年3月期予想)=45.99円

BPS(2019年3月期実績)=1057.38円

PER = 60倍

PBR = 2,6倍

 

パッと見では買い叩かれた感はないですね。この案件の主体は買い手であるベインキャピタルと昭和飛行機の親会社三井E&Sの交渉の結果です。そもそもどのようにしてこの案件は成立したのかを考察します。

 

昭和飛行機とはどんな会社か

昭和飛行機は東京都昭島市にある1937年創業の企業です。名前の通り、元々は飛行機のメーカーです。1937年とは昭和12年、戦前に三井財閥の関連会社として創業しました。戦前から多摩地区は軍需工業が多く、昭和飛行機も軍需製品である輸送機の制作を目的として成立したのです。ただ戦後は当然軍需は無くなったため、現在は輸送用機器の製造販売のほか、当時から所有する広大な土地を原資として不動産関連の事業を行っています。

軍需産業当時から三井造船と関係が深く、2014年1月には公開買付された結果株式の65%を三井造船が保有する事になりました。

 

三井造船の事情

三井造船は2018年4月に再編を行い、現在の「三井E&S」へと銘柄名が変わっています。名前の通り祖業は造船業で、戦前は日本海軍の軍艦を建造していました。戦後も海上自衛隊の護衛艦や輸送艦を建造しています。現在の事業セグメントは①造船 ②海洋開発 ③機械 ④エンジニアリング の4つで構成されています。②の海洋開発を担うのは上場企業である三井海洋開発(6269、東1)です。これは三井物産との合弁で設立した油田やガス田を開発する子会社で、50.1%の株式を保有しています。ちなみに三井物産は約15%を保有しています。ここが今の屋台骨としてグループを支えています。

三井E&Sの業績は全くもって芳しくありません。2期前の2018年3月期より赤字が続いており、今期もすでに大赤字の見通しです。造船とエンジニアリング部門が全く稼げないどころか大穴を開けてしまい本業がお荷物になっているのです。ここに来て三井E&Sは大規模なリストラを始めており、ノンコア事業である部門の資産を売り飛ばしにかかっているわけです。

 

それが今回の昭和飛行機株式の売却なのです。

ある意味三井E&S側の業績や開示を注意深く見ていたら今回のTOBは予測できたかもしれないわけでして、実際11月1日に三井E&Sの決算発表が出たころから昭和飛行機の株価はジリジリと上昇を始めていました。

チャート画像

昭和飛行機チャート ヤフーファイナンスより

 

村上ファンドの跳梁を待つまでもなく、昨今は「親子上場」の解消が大きな潮流となっています。ここ数年で日立や東芝、パナソニックなど子会社を上場させていた企業グループが再編を行い、子会社を売り飛ばすなり完全子会社化するなりと親子上場を相次いでやめています。

「親子上場」は「株主優待」と並んでプリミティブでガラパゴスな日本の株式市場特有の現象でして、長い事この不合理な状態が放置されてきました。これが解消されるきっかけになったのが2005年に起きた「ニッポン放送事件」であり、村上世彰氏が逮捕された原因にもなりました。親会社のニッポン放送より子会社であるフジテレビの時価総額のほうが遥かに大きいといういびつな資本状態が何の疑問も持たれないままだったのです。「あれ?ニッポン放送の株を買い占めたら自動的にフジテレビも手に入っちゃうんじゃね?」という事に目をつけたライブドアの堀江貴文氏に村上ファンドも絡んで大騒ぎになり、結局フジテレビは大きな代償を払う事になりました。その後はこれを機に、巨大子会社セブンイレブンが過小親会社イトーヨーカドーと合併するなどある程度の歪みは解消されました。

 

ここでふと気がついたのですが、2020年2月14日の時点で三井E&Sの時価総額は755億円ですが、子会社の三井海洋開発の時価総額は1,167億円もあるじゃないですか!

村上さん!こっちです!

でも経済産業省が買収防衛策と称して横槍を入れてくるのはほぼ間違いないですね。防衛関連や資源開発関連なら大義名分は十分成立するもんなあ。東芝機械は村上ファンドの本拠地がシンガポールに登記してる事を理由に「あいつら外人だから!外資の横暴を許すな!」って主張してますものね。

 

あ、この昭和飛行機の売却代金は約455億円ですか?自分よりデカい子会社の少数株主分は35%程度あるとして400億円ちょっとですよね。プレミアム乗っけても足りるじゃないですか。

ほら、稼ぎ頭の孝行息子がヨソに利益を供出してるってどうなんですかねえ?やっぱり親子上場って良くないし、いびつな状態を放置するってのも良くないですよねえ?

何が言いたいか、わかってもらえますよね?