やさしく解説 上場廃止って何?

日本でも2020年の2月25日(火)の下落より始まったコロナウイルスショックにより景気後退は避けられないものになりそうです。100年に一度あるかないか、と言われたはずの2008年の金融危機(「リーマンショック」は日本だけで通じる呼び方です)と同様の株価下落が再び世界を覆っています。こういった事が起きると後追いで上場企業にも業績の悪化が始まり、ネガティブな上場廃止が頻発することが想定されます。

 

2008年の金融危機はそれより数年前から始まっていたサブプライムローンを原因とするバブルの崩壊がきっかけと言われています。日経平均株価は2007年の7月末に高値をつけたあと、底を打つまでに19ヶ月、約2年半の低迷を続けました。実際に2008年度は2007年と比べてネガティブな上場廃止の件数は急増しました。

 

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これらの上場企業は景気後退や信用収縮に伴う資金難によって倒産したり、業績悪化に陥って債務超過に転落したり、株価低迷によって時価総額が証券取引所の基準を満たせなくなったり、果てはそれらを回避しようとして粉飾決算などを行ったりと言う原因で上場廃止に追い込まれています。

ここでは2006年以降に発生したネガティブ上場廃止の類型を踏まえて、どうなると上場廃止になるかを説明していきます。

 

上場廃止とは何か?

上場廃止はポジティブなものとネガティブなものがある

1,倒産

2、財務・業績基準抵触

3、株価基準

4,会計監査の問題

5,証券取引所の判断によるもの

 

 

上場廃止とは何か?

 

上場廃止とは一言でいえば取引所で売買が出来なくなることです。そもそも上場とは、東証などの証券取引所に「ウチの取引所で取り扱いしてもいいよ」と認めてもらう事です。認められれば4桁のコード(銘柄コードと呼びます)をもらって証券会社を通じての売り買いが出来ようになりますが、初めてその会社の売買を始めることをIPO(アイ・ピー・オー、イニシャル・パブリック・オファリング=新規上場)といいます。逆にこの認可を失うことを上場廃止といいます。上場銘柄として売買して良いか否かを決める権限は証券取引所が持っているのです。つまりダメ出しするのも証券取引所が最終決定します。

東証などの証券取引所ではダメ出しする基準を「上場廃止基準」として公表しています。

 

上場廃止はポジティブなものとネガティブなものがある

 

この基準には必ずしも倒産などのネガティブなものだけでなく、TOB(ティー・オー・ビー テイク・オーバー・ビッド=株式公開買付)や株式併合による経営統合(いわゆる合併)など、ちゃんと対価が支払われたり場合によっては市場価格より高いお得な場合もありますので、必ずしもネガティブではない上場廃止も多いです。むしろ通常はポジティブな上場廃止のほうが多いと言えます。

TOBは公開買付価格として、経営統合は合併比率を基準にした株式数として対価が明確であるのに対して、ネガティブな上場廃止はそれがありません。殆どの場合は取引が出来なくなったあと、その株式を発行している会社は「上場廃止になってすいませんが、売買出来なくなった後は知りません。」というスタンスです。特に「倒産」の場合は多くの場合100%減資となり株式は無価値になります。借金を返せません、と宣言するのが倒産でして、もし借金を全部返して残ったら株主に分配しますという決まりです。まあ普通はそんなの残らないですよね。株主は事業に対して出した金額までの責任を追う義務があるのです。言い換えれば最悪0円になるというリスクを取ることによって、事業価値(=株価)上昇のリターンをもらえるのです。

 

ここでは実際に発生したネガティブな上場廃止の主なパターンを説明します。

 

1,倒産

「倒産」とは法律で明確に決められた言葉ではありません。いわゆる「倒産」を原因として上場廃止になるのは次にあてはまる状態になった場合です。

①民事再生法申請 

②会社更生法申請 

③破産申請 

④事業活動の停止 

⑤銀行取引停止 (いわゆる「不渡り」です)

これらにあてはまると証券取引所が確認した場合、取引所はその銘柄を上場廃止とします。許認可が必要な事業(例えば銀行など)がその認可を取り消された場合は④に該当します。

 

2、財務・業績基準抵触

証券取引所は上場企業に一定の財務状態や業績をキープするよう求めています。具体的には債務超過にならない事、売上や利益などを一定額以上維持する事です。以下のようにそれが出来ていないと取引所が確認した場合には上場廃止となります。

①債務超過 

 ~有価証券報告書に書かれている年間業績で2年連続債務超過になった場合

債務超過とは赤字が続いて「持っている資産を全部売り払って借金を返しても、まだ借金を返しきれない状態」になったということです。企業としては信用力ゼロですね。融資どころか納品すらお断りされると思います。これでは商売は成り立ちません。上場企業としてはあってはならない状況です。不可抗力という場合も無いとは言えない、という取引所の温情で1年だけは大目に見てくれる事になっています。

②業績基準 JASDAQとマザーズにはそれぞれ独自の業績基準があります。

・JASDAQ 業績基準

「最近4連結会計年度における営業利益及び営業活動によるキャッシュ・フローの額が負である場合において、1年以内に営業利益又は営業活動によるキャッシュ・フローの額が負でなくならないとき」

つまり5年連続で営業利益と営業キャッシュ・フローが赤字になった場合です。5期目にどちらかが黒字になればセーフです。判定する根拠書類は決算短信ではなく有価証券報告書ベースです。JASDAQスタンダード上場の場合は上場した翌期から5年連続ならアウト、JASDAQグロース上場の場合は上場した翌期から5年猶予期間があるので11期連続ならアウトです。

JASDAQスタンダードの基準

JASDAQグロースの基準

上場廃止基準 | 日本取引所グループ より

 

・JASDAQグロース 利益計上

「上場申請連結会計年度の営業利益の額が負であり、かつ当該上場会社の上場後9連結会計年度の営業利益の額が負である場合において、1年以内に当該上場会社の属する企業集団の営業利益の額が負でなくならないとき ※JASDAQグロースの上場会社に限る
※新規上場審査基準に準じた基準に適合していると当取引所が認めた場合を除く」

ややこしい言い回しですが、JASDAQグロースに上場した場合、上場した年から10年連続で営業利益が赤字になった場合です。

・マザーズ 売上

「最近1年間に終了する事業年度において売上高が1億円に満たないこととなった場合
※利益の額が計上されている場合、上場後5年間において売上高が1億円未満である場合及び高い成長可能性を有する場合を除く」

つまり売上が1億円もない場合です。上場後5年は猶予されますが以降はダメです。創薬系バイオもどき企業には結構該当するところが多そうです。

ただし、これら新興市場向け業績基準は昨年2019年12月27日にパブリックコメントで東証が基準を緩和することを公表し、2020年2月より緩和を実施しました。メディシノバ(4875、JQS)などは難を逃れました。12月決算である同社を救済するあからさまなタイミングでしたけど。

 ちなみに東証1部や2部にいるなら何年赤字続きでも業績を理由に上場廃止にされる規定は今の所ありません。

 

3、株価基準

①時価総額

東証2部では時価総額(発行株式数×株価)が10億円を下回ると上場廃止になります。月末時点で下回った場合、翌月初日に猶予期間入りのアラートが出され、9ヶ月の間に月末の時価総額と月中平均の両方が10億円を上回る月が1回もなければ上場廃止になります。1部銘柄は2部落ちの措置が取られます。

②東証1部、2部の株価2円以下基準

いわゆる「1円基準」です。3ヶ月以上株価が1円である場合は上場廃止になります。

③JQ10円基準

JASDAQでは月間の平均株価が10円以下だった場合、3ヶ月間の猶予後に上場廃止になります。

④マザーズ株価基準 

マザーズに上場した銘柄の上場時公募株価から3年以内に10分の1以下になった場合、9ヶ月の猶予期間をもって上場廃止となります。

 

 

4,会計監査の問題

①有価証券報告書、四半期報告書の未提出

 上場企業は年間4回、3ヶ月おきに有価証券報告書(有報)を金融庁の出先機関である財務局に提出しなくてはいけません。詳しくは以前の記事で書きましたが、四半期報告書は45日以内、半期(中間)報告書と年間の報告書は3ヶ月以内に提出する必要があります。もしこの締切までに提出できなければ上場廃止になります。間に合わない場合あらかじめ財務局に延長をお願いして、いいよ、と言ってもらえれば1ヶ月待ってもらえます。延長は2回OKです。それでも2ヶ月後に出せなければ8営業日後に取引所より上場廃止を宣告されます。

②監査意見不表明

 有報の最後には監査法人(公認会計士)の「中身の数字は合ってます」という監査意見が書かれていなくてはいけません。もしここに意見が書かれていなかったり(意見不表明)、正しくないと書かれていたり(不適正意見)する場合は上場廃止になります。

 

5,証券取引所の判断によるもの

①虚偽記載、偽計

決算短信や有報にウソの数字を書いたり、事実でないことを書いて見た人を騙そうとした、と取引所が認定した場合は上場廃止になります。多くの場合、検察や証券監視委員会の強制捜査が行われたり起訴されたりしたあとに廃止か維持かの判断が行われます。

②公益・投資家保護

上場企業が反社会勢力に乗っ取られて好き放題をしていたり、テキトーで無茶苦茶なファイナンスを乱発したり、ともかく暴走している場合に取引所が審査を行い廃止にします。

③上場契約違反等

新規上場する際には取引所といろいろな約束をします。例えば「提出する書類にウソを書いてはいけません」とか「株式は信託銀行などの証券代行業者に預託すること」とかですが、取引所がこれを守っていないと判断した場合です。

④不適当な合併等

新規上場には取引所の審査が必要です。すでに上場している企業を上場していない企業が買収や合併すると、実質的に審査を受けないで上場してしまうことになります。これを「裏口上場」といいます。合併や買収は日常茶飯事ですが、取引所があやしいと見た事案を見つけたときに審査を行い、「あ、これはクロですわ。あらためて上場審査を受けてもらわんとダメだわ。」と判断することがあります。この審査の結果上場には不適当だったり、そもそも審査を受けるには引き受けてくれる証券会社が必要ですが、どこも引き受けてくれなかったりした場合には上場廃止になります。

⑤内部管理体制等の改善見込みなし

上記の①虚偽記載や②公益・投資家保護にあてはまる状態が続いている場合などに、取引所は改善勧告を行います。また上場企業としての体裁をキープするにあたっては必要な人材や人員、それをちゃんと出来る体制が必要です。これが出来ていないと取引所が判断した場合、上場廃止になります。過去の事例を見てみると、カネに困った結果リストラしまくって会社の人員が取締役を含めて3人しかいないというところがありました。それじゃそもそも企業として活動は回らないですよね。

 

 

 もっとも取引所としては取り扱う上場企業の数が多いほうがいいに決まってます。そちらのほうがテラ銭が多く入るわけですから。基本的に取引所はなるべくなら上場廃止にはしたくないのです。特に売買高、時価総額の大きい銘柄は取引所の収益を左右します。そこは大人の事情ってやつですね。

 

下のリンクはこれまでのネガティブな上場廃止の事例を一覧にした記事です

この事例を今後、個別に「上場廃止企業列伝」としてシリーズ的に記事にしていきたいと思っています。

 

なお2020年2月からコロナウイルス蔓延の影響により決算集計や監査作業が遅れていたりした場合や、業績に悪影響が出て債務超過に陥った場合などについては特別に東証より猶予措置が行われる見通しです。4月14日には麻生太郎財務・金融担当大臣が3月末決算の有報提出期限を9月末まで3ヶ月一律延長すると表明しました。