アパレル業界の名門レナウン、逝く

レナウン(3606、東1)が2020年5月15日に民事再生法の申請を行い倒産しました。週末金曜日の20:30とお約束の発表タイミングでした。2020年において初の倒産及びネガティブな上場廃止の発生ですね。倒産事例としては2019年1月17日発生のシベール(2228、JQS)以来、ネガティブ上場廃止事例としては2019年9月30日発生の花月園観光(9674、東2)以来となります。コロナウイルスの影響で東証により時価総額や債務超過、有価証券報告書提出期限などの廃止基準緩和措置が行われていることもあり、最近は件数自体かなり減少していたのですが、なんだか増加しそうな雲行きになってきました。

ただレナウンのいきさつを読んでみると、どうもコロナ云々というのは後付けの理由だとまでは言いません。しかしコロナはトドメを差したに過ぎない、とは言い得ると思います。

 

レナウンからの開示

東証からの公表

 

 

まずもってレナウンが民事再生法申請を行った直接の原因は資金ショートです。5月中旬以降(つまり来週)の支払いが出来ないことになったため倒産したわけです。ではなぜ支払いができなくなったか?もちろん3月以降に日本全国で売り場の営業自粛がはじまり、4月には緊急事態宣言により売り上げがほぼ無くなってしまったために現金が底をついたのが前段階の原因ですね。しかし上場企業では政府や金融機関の措置などがあるため資金繰りに窮しているところはそこまで多くはないはずです。

にもかかわらずレナウンはなぜ飛んだのか?

ではその更に前の段階で何が起こっていたのかを見ていきましょう。

 


 

前期2020年2月期の締めで397億円の純資産がありましたが、2020年2月25日に行ったこの開示によると約58億円の損失が発生しています。そのうち53億円程度はなんと「親会社へ納めた商品の代金支払いが滞納されている」というヒドい話だったのです。言わば自分の親に取り込み詐欺をやられたというシャレにならない事案です。

その親会社とは「山東如意科技集団」という中国山東省を本拠とする中華資本のアパレルグループです。レナウンは今からちょうど10年前に第三者割当増資を引き受けてもらう形で子会社になっていました。その山東如意は現在すでに経営危機に瀕しているようで、中国国内や外国の企業から売掛などの未払いであちこちと係争中の様子です。イケイケだった数年前までは「中国版ルイ・ヴィトン・モエヘネシー」と自称か他称か知りませんが、勢いにまかせて世界中のアパレル会社やブランドをM&Aしまくりの成長企業だったみたいです。元は国有企業なんですけどね。

そんな山東如意の素性はともかく、レナウンは「親会社に踏み倒される」という滅多に見ないダメージを受けたのです。純資産への影響もさることながら、キャッシュフローに関してはクリティカルだったはずです。2019年8月締めの現金残高は65億円程度はあったのですが、踏み倒されたとの開示と同時に出した2019年12月期の決算では現金残高は33億円までほぼ半減しちゃってました。

社内も役員人事で山東如意とモメるなど関係はすでに親会社・子会社らしからぬ緊張状態(というよりすでに紛争状態)だったようです。今回の民事再生法申請により株式価値は吹っ飛んでしまうでしょうから、当然山東如意はレナウンへの出資分(簿価約70億円)は紙くず同然となるでしょう。どうもレナウンからの意趣返しというか自爆テロといった意味合いを感じます。

実際裁判所に民事再生法申請手続きをしたのは、山東如意に取締役会を支配されたレナウン本体ではなくグループ会社の (株)レナウンエージェンシーでした。元の経営陣が手を回して代わりに申し立てたのでしょう。

 

そうえいば山東如意とは20年来にわたって刎頸の仲といわれる伊藤忠さんはまだ被害を受けてないのでしょうか?

 

山東如意に限らず、個人的に中華資本にイマイチいい印象を持っていない理由を少し述べます。

そもそも中国企業はコンプライアンスという概念において、よく言っても「独特の」解釈をすることが多いように感じます。少なくとも現時点で日本の概念とは大きく異なっており、現地に進出した企業の駐在員から苦労話を聞かされます。

そして中華資本が海外に進出した場合には彼らの独自解釈を押し通すのが当たり前の権利だと思っているフシがあります。まあ中華思想ってやつなんでしょうね。

先日の2020年4月2日、中国のスタバと称する「ラッキンコーヒー(瑞幸珈琲)」が粉飾決算を行っていたことを認め、米国NASDAQ市場にADRで上場する同社は1日の取引で80%以上の株価下落を起こしました。同社株式は4月6日を最後に売買停止になっており、今後超高額の賠償請求と破産宣告が予想されています。2018年創業、2019年5月の上場と凄まじいスピードで成長していたように見えましたが、蓋を開けてみればこれぞ中華クオリティという話だったわけです。

別に日本企業が全くヨゴレがないというつもりもサラサラないですし、むしろ日本独特の白粉を盛って飾る手法というかメンタリティは存在するのですが、中華メンタリティはそれとは違った、脂ぎってヌメヌメと黒光りするテイストを感じます。まあ個人ベースの自己中という首尾一貫した原理があるので分かりやすくはあるのですが。

ただラッキンみたいなこれまでの事案ではアメリカ側がきっちり賠償を取り立てる仕事をしている(つまり筋を通す)のですが、日本では余りそういう事例を見かけない、悪く言えば「ヤラれたほうも悪いんじゃね?」的な理不尽なケースが多くありませんか?

そういうところですよ?市場は参加者みんなで筋を通さないと腐って結局みんな死ぬんです!

 

話をレナウンに戻します。

 

もうレナウンの歴史や繊維・アパレル業界の栄枯盛衰については他所でさんざん書かれているのでここでは端折ります。今後の値動きとデイトレの対象物としてちょっとだけ見てみましょう。

 

週明け5月18日のレナウン株は引け値48円、前日比-30円ストップ安比例配分で終了しました。出来高は208,200株。

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発行済株式数は101,307,449株つまり約1億株ですので、まだまだ売り玉はワンサカ出てくるでしょう。しかし直近2019年12月期のBPS(一株当たり純資産)は150円ほどでした。もちろんこの間に資産は多少摩滅しているでしょうしスポンサーが名乗りを上げるかは微妙との評判ですが、やはり資金ショートが原因である事(つまり債務超過ではない)を考えても無価値とは言い切れませんでしょう。

取引最終日は6月15日(月)の予定です。5月19日からは値幅制限が撤廃されるため、1円という値段も理論上はありえなくもない、すんごいハイボラティリティが予想されます。美味しそう。

2003年11月29日の、「あしぎんフィナンシャルグループ」(8352、東1)が会社更生法申請により破綻した際のことですが、たしか破綻発表後の翌々営業日だったと思います、板が「1円売り気配」になったのです。中軸の足利銀行は債務超過ということになりましたが、この銘柄は名前の通り持株会社で足銀の他にも並列でリース会社などが存在したため、よくよく考えればそのリース会社の価値を勘案すると「1円」は安すぎだったのです。

あの頃はみんな「倒産=無価値」と決めつけていたのでしょう。翌週だったと思いますが、株価は24円までハネました。1円で買って数倍~数十倍で売り抜けた人が続出したのです。その年の年末に名古屋テレビ塔から1ドル札をばらまいて大騒ぎを起した男性が現れました。警察に事情聴取されて、

「あまりにも簡単に儲かりすぎて嫌になった」とのたまったそうです。

 

比較的近い事例では2017年6月にやはり民事再生法申請により整理銘柄指定されたタカタ(7312、東1)の再現、ぜひとも拝見したいですね。