前回は日米の違いを基にして株主資本利益率(ROE)という視点から株式投資のメリットをお話ししてみました。
今回は逆にお勧めしない株式を挙げた上で投資すべき株式の考え方に言及してみます。
高配当銘柄=優良株ではない
古くから流布されているデマの一つに、「配当を多く出す株はいい株だ」というものがあります。実は企業業績と配当は必ずしも連動していません。赤字であっても配当を出しちゃう会社は実在しますし、「記念配」という慣習もともすれば業績不振や伸び悩みを煙に巻く材料になっていることもまま見かけます。
米国のタバコ会社は目立って配当を出しまくっているため、高配当銘柄として有名です。アルトリア・グループ(ティッカー MO)は現在8%を超える配当利回りです。同社の業績は売上こそ横ばいではあるものの、一株利益(EPS)は一貫して減っており、かつ自己資本比率は毎期10%以上下がり続けています。もうそろそろ債務超過になっちゃう勢いですね。これは一説によれば、健康被害の訴訟を抱えているタバコ会社は裁判の決着が付く前に、「倒産上等!」と会社資産を差し押さえられる前に配っちまえといった、俗に言うカミカゼ配当を行なっているからだと言われています。まるでタコが自分の足を食べちゃうような配当性向ですね。
あれ?説明してて思い出したんですけど、21世紀初頭に日本国内、特に銀行窓販で一世を風靡したあの「毎月分配型投信」と同じ構造ですよね。
「8%あればなんとか元は取れるだろう。」といった考えは意味を成しません。なぜならそもそも投資は「元を取る」ことが目的ではないからです。単に損をしたくないという志の低さを取り繕うためだけに、配当という猫だましのような小銭をもらって自分のヘタレぶりに見て見ぬ振りをしているだけです。
もちろん生活していく上である程度のキャッシュフローは必要でしょう。でもそれって余命幾ばくもない老人が言うならしょうがない。しかし人生100年って言ってる今どき資産の大半を配当株にしてる人がたまにいらっしゃいます。10年ほど前のことですが、資産の大半を日本の電力株にしていた人がいました。当然配当目的だったのですが、今は日本の電力会社はすでに配当余力があまりないですし、最大手だったあの東京電力という会社はおそらく配当を出すことは永久に許されない気がします。
投資は価値を増やすことが根源的な目的です。
もっとも米国企業の大半は株主還元策として配当ではなく自社株買いを行います。そのほうが株主には配当と違って都度つど税金がかけられません。買った自社株はすぐに償却してしまうので既存株主の持分比率(いわば分け前の取り分)が増えますからそのほうが合理的です。そもそもそんなに配当を出すくらいなら事業拡大に資金を使って複利で資金を回していくべきでしょう。それをしないのは単に、高配当株は「事業がすでにオワコン」だからという事が多いように見受けられます。
高配当銘柄もかつては若く伸び盛りの成長期があったのです。そして大きくなり成熟するにつれて増配をして、やがて高配当企業となるのが一般的です。それを鑑みると、「成長株を買っといたらいずれ増配するから高配当になるんじゃね?」という視点を持っている投資家がまだまだ本当に少ないと思うんですよね。
どうしても配当を確保したいのなら、法人税免除という特権をもつREITを一部組み込んでおく程度が合理的じゃないでしょうか。
毎年平均してROEの高い会社の株はよい
前回の記事で「米国株はROE(株主資本利益率)が高いので効率がよい」という点に触れました。
ROEが高い企業とはどういった特徴があるのでしょうか?
1,事業の収益性が高い
当然のことですが、儲かる事業をやっているということです。儲かる事業とは利幅の厚いビジネスです。もっと言うと、「高くても売れる」、「安く仕入れている」、「資金の回転が速い」のどれかまたは全部に当てはまります。
例えばGAFA(Google・Amazon・Facebook・Apple 4社の頭文字)は急速な業績の拡大と株価の上昇を続けてきましたが、これらは少なくとも2つの項目に当てはまる会社ばかりです。詳しくは2019年にベストセラーになった「the four GAFA 四騎士が創り変えた世界」(スコット・ギャロウェイ著、東洋経済新報社)を読んで下さい。
もっとも税制の問題で、米国企業はシェアを獲得するまではわざと赤字にすることが多いため、ROEが出せないところがザラにあります。あのAmazonはほんの数年前まで赤字企業でした。早い話、市場を支配するまでは赤字のまま税金は払わずに拡大に専念し、黒字になる頃には世界はすでに支配されている。そうなれば帳簿上の利益なんかダムが決壊したように溢れ出て来ますもんね。Amazonはいま、そんな状態。
つまり法人税という税金すらカットして成長に回してる、そりゃ株主(だけ)にとってはいい会社ですよ。
なお、こういったROEで測れない場合はFCF(フリー・キャッシュ・フロー)を物指しとすることが多いようです。
2,IT (情報技術 )を多用している
これは言い換えれば、基本的に「仕入れ」がない業態、と言う事です。支出は研究開発費がコストの多くを占めており、人件費や商品原価は非常に低く抑えられています。少数の人間がアイディアや仕組みを作り上げて運営するビジネスですね。最近流行りのサブスクリプション・モデルなどの多くはこのタイプが多く見受けられます。営業促進の人海戦術は必要ではないし、当然ネットとの親和性が高く、言わば引きこもりが回すシステムなので結果的にパンデミックの影響を受けにくいわけです。むしろ既存の業態を喰っちまうくらいの追い風を受けてしまっているほどです。
この業態の特徴を言い添えれば、労働集約的ではなく知識集約的であるため人件費のコストに占める比率が低いという点も挙げられます。まあ株主の取り分余力が大きめであるわけです。
結論ですが、配当なんか出すより成長に資金を回してくれたほうが、のちのちのリターンは大きくなるわけです。
税制では米国企業に比べていろいろ不利な面も多い日本企業ですが、それでもなかなかに良い企業と言える銘柄群もちゃんと存在します。米国に比べたら少ないですけど。
それでは次回⑥では、ようやく個別の国内株のお話になります。
引っ張りすぎですね?すみません。