コロワイドに敵対的TOBをかけられてる大戸屋の勝算は?

2020年7月9日に居酒屋系外食チェーン運営のコロワイド(7616、東1)が、定食屋チェーン運営の大戸屋HD(2705、JQS)へ公開買付を発表しています。これまでの経緯からすでに敵対的TOBとなりました。7月17日(金)時点で大戸屋側は反対の意向を表明しています。


コロワイドが提示している条件ですが、買付価格は3,081円。前日終値2,113円に約46%のプレミアム。買付株数の下限は発行済み株式の45%、上限は51.32%。つまり子会社化だけが目的ですので成立後も上場は維持される見込みです。買付金額は最大で71億円。期間は8月25日まで。買付代理人はSBI証券。買付者であるコロワイドはすでに発行済株式総数の約19%を保有しています。

今回の騒動は、このコロワイドの持ち分が以前は誰のものだったのか、というところから話は始まります。

 

以前の記事である以下の記事

でも言及しましたが、いわゆる「お骨事件」の話です。

 

実質的創業者である三森久実氏がちょうど今から5年前の2015年7月27日に、1年の闘病の末57歳の若さで急逝されました。

あまりにも肺がんの進行が早かったため、オーナー企業では必須のはずの相続税対策は手を打つ時間的な余裕がほとんどなかったようです。それでも久実氏は子供である三森智仁氏を後継者に据えるべく、残り少ない余命を費やして自分の人脈を引き継がせようと奔走したそうです。しかし久実氏が保有する大戸屋HDの株式約130万株は相続税の対象になってしまうため(仮に存命中に贈与しても相続発生から3年間さかのぼって相続税の対象に引き直されてしまうので無駄)、久実氏の配偶者である三枝子氏と息子の智仁氏も相続人としては大戸屋の株式をなんとか出来ることはあまりなかったわけです。つまり相続税を支払うためのキャッシュを用意する方法を探すことになります。

 

一般的に上場企業の社長やらオーナーと聞くとお金持ちと思われるかも知れませんが、実際は意外と自由になるキャッシュを持っている方は少ないのです。全身全霊を自分の分身である事業に注ぎ込んでいればいるほど、資産のほとんどは自社株になってしまいますし、頑張れば頑張るほど評価額だけが上がってしまいます。そして相続が発生すると莫大な相続税を遺族は払えなくなる、なんて事例はしょっちゅう見かけます。結局遺族はその株式を泣く泣く売り払って相続税を払うのです。

 

大戸屋の場合、久実氏は中継ぎ社長として考えていたであろう窪田健一氏(久実氏のいとこ)と相続税納税の対策について事前に取り決めがあったようです。それは大戸屋が故久実氏へ退職慰労金という形で8億円を遺族に支払うというものでした。ところがどうもメインバンクの三菱UFJ信託銀行(ちなみに智仁氏の前職は新卒で同行に入行、配属先は本店営業部)から来た相談役の河合直忠氏が自分の取締役復帰を狙ってケチを付けたようでもあり、窪田氏がその尻馬に乗ったようでもあり、結局そのお金は支払われなかったようです。さらに智仁氏は取締役から外され、最終的に智仁氏は大戸屋を退職しました。そしてくだんのお骨事件が勃発するのです。

 

ここのところの経緯について智仁氏が日経ビジネスの取材で主張した内容はこちらです


窪田健一氏が東洋経済の取材で主張した内容は以下


まあ傍から見れば創業者の腹心のクーデターのように見えなくもないし、さりとて入社1年か2年そこらの20代の若造が創業者の血縁だけで会社を引き継ごうとか図々しい、と思われるのもしょうがないようにも見えます。このゴタゴタの最中に元々いた役員10人のうち7人が大戸屋を去ってしまいました。

 

三枝子氏と智仁氏は相続税が払えなくなりました。窪田氏側からは相続した大戸屋株式を買い取るという提案もなされたようですが、二人は拒否し急場しのぎで銀行から借金をして相続税を支払います。しかし2019年10月1日付で、二人はコロワイドに株式を売却しました。この時点で創業家の二人はコロワイドという第三者に祖国の支配権を売り渡し援軍を引き受けてもらったわけです。いわば追放された旧王族が近隣の大国に亡命して捲土重来を図る構図ですね。

 

4月13日、コロワイドが6月開催の大戸屋HD株主総会で役員の入れ替えを要求することが明らかになります。コロナ禍で飲食業界が疲弊している中、ここ数年業績が低迷していた大戸屋のテコ入れを行うべき、として。また大戸屋王国の正統な王位継承者として智仁氏を取締役に推してきました。ちなみにコロワイドの株主提案は窪田HD社長(大戸屋会長)とガイアの夜明けで登場した山本匡哉社長も取締役候補という内容でしたが、山本社長は4月1日付ですでに業績不振の責任をとって社長を退任しています。なおテコ入れ策とはやはりセントラルキッチンの導入でした。これも以前の記事で触れましたが、大戸屋のこだわりは店舗厨房での仕込みと調理です。これはどうも創業からの遺伝子であると「大戸屋側」は考えているようで、建前的にはここが最大の争点になっていますね。

 

6月25日に開催された株主総会では双方の提案が採決され、窪田氏側の方針が決議されました。コロワイドはその他60%を占める個人株主へお食事券付きアンケート送付などいろいろと浸透作戦を画策し賛同を得ようと試みますが、開催された総会の場では結局負けてしまいます。しかし窪田氏としても依然コロワイドが筆頭株主である事、気まぐれな個人株主はこの先どう転ぶか予断を許さない事を痛感したでしょう。

 

そしてついに業を煮やしたコロワイドは敵対的TOBという侵攻作戦に打って出ました。

 

当然「大戸屋側」はこれに反対の表明を行います。社員の大半は「あのエゲツない、コロワイドの回す、セントラルキッチンのカルマに巻き揉まれるくらいなら、退職してわれわれの大戸屋を灰燼に帰す覚悟である!」とも取れる声明を出し、こちらは焦土戦術の構えを取ります。これもポイズンピルというやつですかね?

たしかにコロワイドの思惑が成立するのなら、大戸屋の定食は居酒屋甘太郎のおつまみと同じ味になっちゃうのかも知れません。

 

なんだか簒奪者と亡命王子の復位を賭けた決戦という面より、セントラルキッチンという教義をめぐる飲食業界の宗教戦争といった要素が多めになってる気がします。

 

ただね、まず智仁王子に聞きたい。お父さんの信奉してた店内調理の教義は放棄したってことでいいんですよね?亡命先で宗旨変えしたって事にほかならない解釈でよろしい?

 

窪田社長にも聞きたい。買収防衛策については検討していない、ってどういうこと?それって「資本政策については代替案なし」っていう解釈でよろしい?つまり平たく言えば個人株主に「株は高くても売るな!オレと業績回復を信じろ!」とおっしゃっているの?ちょーっとそれは無理スジじゃね?この5年でなんか実績あったっけ?

それとも「大戸屋という理念を死守して株主もカネを溶かして殉じるべき!」とかじゃないですよねー。

つーかなんで今の今まで株主対策がホントに全くの無策なんすか!

 

「大戸屋側」こと従業員にも聞きたい。焦土作戦の脅しが万が一成功したとしても、多分このままじゃ墓穴の位置が少しズレるだけの気がするんだよね。コロナ以前からジリ貧だったじゃん。この国の貧しい状態を見てごごらんよ。安さに勝てる人間は少数なんだよ。共同の食材仕入れと独自のセントラルキッチンくらいまでは妥協するべきでは?そのほうが健全な労働環境に近づくと思うんですけど。それでも店舗調理と独自仕入れがそこまで大事ならユニゾみたいにEBO(エンプロイー・バイアウト)してくれませんかね。少なくとも既存株主からの信頼はもう失ったんじゃない?

 

まあ法的に見ても、株主構成からみても、TOB価格を勘案しても、コロワイドに圧倒的に分があるのはわかります。個人的には大戸屋のご飯は好きなんですけどね。でも上場会社がこんな状態のままでいいわけがないでしょう。万が一コロワイドが手を引くとしてもです。

理念にこだわるのは結構ですが、それなら形はどうあれ非上場会社になってからにしたほうが良いのではないですか?

 

資本や株式はこだわりのおもちゃじゃないんだよ?