高級フレンチのひらまつ、内紛の末に上場廃止へリーチ

創業者兼筆頭株主との利益相反

ひらまつ (2764、東1 )は明日2021年1月12日の17:15までに四半期報告を提出しないと上場廃止が確定してしまいます。年明け1週間での訃報とか縁起でもないですが、どうしてこうなったのか経緯を見てみましょう。

 

東証からは年末の2020年12月28日、監理銘柄に指定され、上記規定通りのリミットが発表されています。

まずもって上場廃止基準に抵触しそうなのは「有価証券報告書の未提出」または「監査意見不表明」のどちらかです。提出できていないのが今期2021年3月期の中間決算分、つまり2020年9月締めの決算で、これに会計監査をしているあの新日本監査法人がダメ出ししているのです。

決算数値については一応完了しています。新日本は何にケチをつけているかと言うと、「とある人物との不適切な取引」についてのようです。

 

とある人物とは創業者であり現在筆頭株主、そして2016年まで経営者であった平松博利氏のこと。

そして不適切な取引とは、一言で言えばひらまつ社から平松博利氏個人への会社資産の流出と私物化です。

 

ことの始まり

ひらまつ社はホテルオークラのフレンチシェフであった平松博利氏が1982年に開業した会社で、レストラン事業を核に2003年3月にジャスダック上場、2010年9月には東証1部へ鞍替えと拡大してきた企業です。2016年に事実上のオーナー平松氏が経営を引退するまではほぼ順調な運営が行われてきました。

2016年に経営を引き継いだのは陣内孝也氏です。この頃からひらまつ社はそれまでのレストラン事業、ウエディング事業に加えて、ホテル事業を開始しますが、どうもこれが上手く行っていません。

また、問題としてこのホテル事業において不適切と疑われる多額のコンサルティング料がとある会社に支払われるようになりました。とある会社とは、平松博利氏が個人で経営する「ひらまつ総研」宛てで、なおかつひらまつ社の主力レストラン店舗も経営権が分かりづらいように「ひらまつ総研」に移譲されていました。さらにそのうちの数店は、平たく言えば平松氏側が赤字になってもひらまつ社が補填する契約まで交わしていたようです。ほかにも平松氏が個人的に所有していたあちこちのマンションをひらまつ社が買い取った上でそのまま使わせていたり、社用の高級外車ベントレーを自由に使わせていたり。

まあ非上場会社のがめついオーナーさんなら、まあやってると言っちゃやってる事かも知れません。しかしそれはせめてオーナー社長が株を100%所有している中小企業ならまだしも、他の株主にしてみればほぼ窃盗じゃないですかね?ちなみに平松博利氏の現在の株式保有比率は10%ちょっとですので、残り90%近くの他株主には何か言う権利はあると思いますが。

 

あまりにホテル事業が上手く行かず、全体の業績も落ち込んできたため、外部からの資金調達を図らざるを得なくなります。2019年3月にはレストラン・トラベル予約サイトの「一休ドットコム」を創業し、ヤフーに売却してお金も経験も持っている森正文氏宛てに17億円で第三者割当増資を発表したのですが、誰かの反対にあったのか3日後には白紙撤回されました。2019年8月には企業再生ファンドのアドバンテッジ・パートナーズに第三者割当増資をする事が決まりました。アドバンテッジが精査したところ、これらの不適切な取引が発覚したようです。

 

アドバンテッジから送り込まれた新社長の遠藤久氏は、日本マクドナルドを振り出しにキャリアを積んだ経営のプロです。遠藤久氏はまず、平松博利氏への利益供与とも言える不適切な取引にメスを入れ、くだんの「ひらまつ総研」との契約解除を行いました。また、それまで社長をしていた陣内孝也氏を取締役から外します。陣内孝也氏は1965年生まれ、23歳の時にひらまつ社へ入社した人物で、元々は辻調理専門学校卒のシェフです。つまり平松博利氏とは師弟関係であり、かつて上司と部下の関係であり、まさに叩き上げの子分と言えるポジションだったわけです。そんな陣内氏にとって平松博利氏の命令は絶対的なものだったのでしょう。これらの利益供与のほとんどは取締役会の承認なしに実行されていたそうです。まあ会社法ではこういった事を背任と言うのですが。

 

2020年9月4日、平松博利氏側から東京地方裁判所で訴訟が起こされました (開示は2020年10月5日 )。内容としては、「ひらまつ社は今まで通りカネ払え!」と言うものです。

なかなかに豪胆なポリシーというかアクの強さを感じます。やっぱり訴訟するのはほとんどの場合、「自分はまったく間違ってない!客観的に見てもオマエが悪いに決まっている!」と思っていなければしないものじゃないでしょうかね普通は。「元」とは言えオーナー創業者の自分が作った会社に対する考え方はこういった風なのかなあ。つまり、「毒親が子供に発揮するジャイアニズム」というか。まだ69歳だから認知で道理がわからなくなる年じゃないと思うんだけど。

 

ともかくも、この提訴を受けてひらまつ社は外部調査委員会を設置しました。この件を調査して詳細を公表しないと上場企業の開示基準に抵触しますし、これまでの不適切な取引は訂正しないと監査法人が有価証券報告書にハンコを押してくれないからです。

 

2020年12月25日、この外部調査委員会の調査報告書が公表されました。先のこれら不適切な取引はこの報告書で詳細に説明されています。また、この公表を待って延び延びになっている2020年9月締めの中間決算の有報提出について、本来の締め切りである11月16日はとりあえず無理、再延長した12月16日も無理。東証は規定通り、「じゃあ12月28日が期限だよ、そこで出さないなら8営業日目には上場廃止決定にするよ」となったのです。

 

業績、財務の状況と倒産可能性

今回問題になっているのは有価証券報告書の未提出なので、ボトルネックになっている監査法人の内容承認さえあれば目先の決着は着くでしょう。今のところ債務超過になっているわけではないし、売上自体は立っているのですぐに倒産ということにはならないと思います。

しかしまさにコロナ禍に狙い撃ちされたような業態なだけに、業績は今後予断を許さない見通しです。財務状況としてはすでに継続企業の重要事象にアラームがついていますね。なんでも銀行からの借入 、おそらく2019年1月締結のシンジケートローンに付いている財務制限条項 (コベナンツ)に引っかかっていて、法的には一括返済を求められてもおかしくない状況になっています。

 

ガバナンスの欠如

この件、創業者であり筆頭株主の平松博利氏が会社の資産を私物化した。また子飼いの弟子であった陣内孝也元社長は平松氏が資産を会社から抜いていくのに手を貸した。これが問題の発端なわけです。

つまりひらまつ社は取締役会が牽制するというガバナンスが機能していなかったダメ会社な訳ですね。

 

過去を清算するにしても明日夕方までに監査法人を納得させて有報を提出しなくては。上場企業としての格を失うと銀行は黙ってはいませんよ?

 

遠藤現社長はプロの経営者ですから、そこはギリギリでも何とか新日本監査法人と折り合いはつけてくれるのでしょう?

 

ただ、新日本は

「社内証憑じゃダメやろ。これじゃ単なるメモ書きやんか?ちゃんとワシらでも納得できる書類で提出頼んますわ。いやね、アンタらが数字を捏造してるとまでは言いまへんけどな、今時分は色々とややこしいご時世やろ?簡単に甘い顔はできんのですわ。ご存知の通り、5年ほど前にあの東芝さんのチャレンジ事件で営業停止やら課徴金やらとんでもない迷惑かけられたんはワシらですやん?

いま平松のオヤジさんと訴訟になってるのはよう知ってますけど、あっちからも領収書とか出してもらわんと突合できまへんやろ?

え?オヤっさんがヘソ曲げてるから協力してくれない?それじゃ監査レビューはできまへんなあ。」

 

なんて今頃言ってたりして....

 

ところでなんだかんだとこれまで功労退職金やら保有株をひらまつ社に自社株買いさせた上で、さらに結構な金額をおかわりして手に入れている平松博利氏ですが、無理スジな訴訟を起こしてみたり (むしろひらまつ社から返還訴訟を起こされそう )、どうも急にカネに執着するようになったように見えるのですが、カネコマに見えるのはなぜ?いまさら税金に追われてる訳じゃないでしょうに、なんでそんなにカネの亡者になっちゃったの?