めでたく1部復帰の東芝、その軌跡① 成立と西室泰三氏

数字をつくる技術の東芝

粉飾決算の技術を凝らした「チャレンジ」こと東芝が約3年半ぶりに東証1部へ復帰することが2021年1月22日引け後に決定しました。1月29日付になります。

 

思い返せば東証2部に降格したのは2017年の8月、直接の事由は債務超過転落でした。ご存知の通り東証の規定では債務超過は2部へ降格、さらに2期連続なら上場廃止という決まりです。実際に東芝は2017年3月期に債務超過に転落しました。このとき創業から100年以上にわたり営々と先人たちが積み上げてきた資本をすべて溶かしてしまったと言うことに他なりません。

東芝は増資を行うなどして翌2018年3月期に何とか債務超過を解消し、2020年4月3日に一部復帰申請を行っていました。

改めてですが、超名門企業だった東芝はどうしてこうなっちゃっていたのか、がっつり私見を交えてまとめてみました。風化させないためにこれまでのいきさつを振り返り、記憶に永く銘記しておきましょう。

 

東芝の歴史

「東芝」の名の由来は「東京芝浦電気製作所」から来ています。百貨店の「三越」が「三井越後屋呉服店」から来たのと同じノリですね。正式には1984年に「東芝」への商号変更を行なっています。

同社の起源は19世紀後半まで遡ることができ、1939年に電球メーカーの東京電気と電信機械メーカーの芝浦製作所が合併した企業だそうです。

第二次世界大戦後、日本には3種の神器だとか3Cなどと呼ばれる家電製品ブームが起き、家電の国産トップメーカーであった東芝は急成長を遂げます。これは日本電機メーカー黄金期の幕開けでした。高度経済成長をはじめた日本人の生活スタイルに浸透し、テレビが普及してからしばらくして1969年より放送開始されたフジテレビの長寿アニメ番組「サザエさん」を、単独スポンサーとして提供していたのは象徴的です。

 

また東芝は社長経験者などを経団連や日本商工会議所などの財界に送り込み、また政府の諮問機関や調査会メンバーに名を連ねるなど、日本の政治・政策の過程にも巨大な影響力を持つようになります。

 

西室泰三氏の院政とその罪

1996年に就任した東芝第13代社長、故西室泰三氏の自宅は、横浜市西区の三ツ沢競技場へ登る坂の上にありました。今から3年ほど前の2017年10月14日に、入院していた慶應大学付属病院にて老衰で他界されています。81歳でした。

 

西室氏は東芝社長としては2000年で退任しますが、会長に退いたと見せて数年後に「社長指名委員会」を作り自らその委員長に就任します。要するに後継者に自分の息のかかった人間を自ら指名する体制を構築しました。そして西室氏は事実上の終身会長となります。

2006年、実質的に会社を支配しながらも形だけ肩書きは執行役員相談役だった西室氏はアメリカの原子力発電会社大手ウェスティングハウスを6600億円で買収します。役職上は取締役ではなかった西室氏が個人プレーと独断で決定した案件と言われています。が、法的な権限はなかったためにその後責任を問われることはありませんでした。ご存知の通り、原子力発電所事業はあの2011年の東日本大震災のために事業として成り立たなくなります。そして後述する債務超過転落の直接原因になってゆきます。

 

また西室氏はあの「チャレンジ」 (東芝社内では粉飾の隠語)を生み出した張本人と言われています。

これは西室氏に詰められた当時の西田厚聰社長が営業部門のみならず財務部門の現場管理職に、パワハラを行なって数字の底上げ (東芝社内で言うところのストレッチ)を強要したために起きたとされています。2008年の事です。

因みにですが、西室氏は2005年、東芝を支配しながら東京証券取引所 (東証)社長に就任します。

東証のトップとして2006年3月13日に、検察の強制捜査を受けていたホリエモンこと堀江貴文氏率いるライブドアの上場廃止を決定したのは西室氏でした。ライブドアの上場廃止事由は有価証券報告書の虚偽記載、つまり粉飾決算 (後に呼ぶチャレンジ)です。つまり西室氏はライブドアを粉飾決算を理由に東証から追放した後に東芝の粉飾を始めているのです。まあ実行犯は西田氏ということになってはいますけど。

また2012年には安倍晋三首相の推挙で郵政民営化委員会委員長に就任、翌2013年には民営化された日本郵政株式会社の代表取締役になります。日本郵政社長としてオーストラリアの物流大手トール・ホールディングス買収を行いますが、6200億円という大枚をはたいた買収は結果的に空前の高値掴みとなり、わずか4年後の2017年3月期には4000億円の減損損失を計上するハメになったのです。さらに今から数年前の2019年春に明らかになった郵政の子会社かんぽ生命の不正契約事件は、時期で言うと主に西室氏がトップ就任翌年の2014年4月から多発しています。かんぽ生命を支配する親会社日本郵政が、「収益なんぼや?あ"あ?少なすぎやせんか?」とプレッシャーをかけたからでしょう。

 

東芝の天皇と言われた西室氏はトップ在任中に出身の東芝で無茶な企業買収で1兆円を優に超える損失を与えながらも死ぬまで東芝を支配し、かつ部下に粉飾決算をやらせました。自分と同じ粉飾決算を行ったライブドアだけを自分で葬り、かんぽ生命にも無茶で違法な保険勧誘を強要して高齢者からお金を巻き上げたわけですね。

おそらく、実際に手を汚した現場の社員たちがそんな事をしたかったかと言えば、決してそうではなかったと思います。

この人は、結局何一つ責任を取らずに天寿を全うし、人生逃げ切りに成功したわけです。西室泰三という人物は、いわば全てのツケを後進にかぶせた逃げ勝ち組の代表選手とか、平成最大の老害とか言ってよいのではないですか?これほど今の日本に悪影響と損失を与えた人間を他に思いつかないですもの。

 

②に続きます

 

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