船井電機に秀和システムHDが918円でTOB 上場廃止の見込み

船井電機 (6839、東1)に2021年3月23日の引け後、TOBが発表されました。買付価格は918円、期間は5月10日までの30営業日。代理人はSMBC日興証券

公開買付を行うのは非上場の秀和システムホールディングス。買付株数の下限は1,160,020株で上限なし。船井側は賛同意向のため上場廃止になる見込み。買収金額の総額は約250億円でりそな銀行からの融資で一部を賄う予定。

発表前の当日引け値は733円。


船井電機の沿革

船井電機は「安いテレビ」で有名な会社でした。私も一人暮らしを始めた2000年代前半に初めて買ったテレビは、フナイのVHSビデオ内蔵ブラウン管テレビでした。たしかダイエーで当時お値段19,800円なり。「写りゃなんでもいい」というニーズを全面的に受け止めていた記憶があります。1980年代から薄型液晶テレビが普及し始める2000年代半ばまでの時代、16インチ型、20インチ型のブラウン管テレビは結構フナイのTVが売れていました。船井電機が現在抱える内部留保はこのころの廉価製品の売り上げで形成されたと思料します。実際今の主要顧客は安売りスーパーの米ウォルマートで、アメリカの店舗で売られているテレビのシェアをそこそこ占めているそうです。現在は他社の映像系製品のOEM生産を主力事業としています。

創業者は船井哲良氏で、1951年に大阪でミシンの販売を始めたのが同社の起源です。その後トランジスタラジオの製造販売に乗り出し、その部門が1961年に船井電機となります。

同社は1999年2月4日に大阪証券取引所へ上場、翌2000年3月9日には東京証券取引所に上場します。

しかし2012年頃よりテレビなどの売上や収益が下降をはじめ、北米市場で提携していたオランダのフィリップス社との揉め事もあり業績は傾いていきます。ここ数年も業績は低迷しており、ここ5年間で最終赤字にならなかったのは2019年3月期のみです。

 

2017年7月4日に相談役に退いていた創業者の船井哲良氏が亡くなりました。哲良氏が保有していた船井電機の株式はご子息の船井哲雄氏が相続します。ところが哲雄氏は船井電機の事業や経営には関係のない職業に就いています。

船井哲雄先生は現在、北海道旭川市にある旭川十条病院の院長先生をされています。国立旭川医科大学を卒業したあとも大阪には戻らず北海道で医療活動を続けられている医師です。 

哲雄氏は創業者の子供として船井電機の低迷を気にかけながらも、実際できることは自身の経営参画ではないと思っていたようです。数年前から外部から呼ぶ経営者を探し、相続した株式の譲渡を模索していたことがこの開示からうかがえます。

 

現在の主な株主構成は

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となっています。上記の株主は創業者系の株主で、今回のTOBに賛同を表明していますのでTOB成立の可能性は高いでしょう。

 

秀和システムHDとはどんな会社か

本件の買収主体者は上田智一氏率いる秀和システムホールディングスという企業です。秀和システムとはもともと1981年に設立されたパソコン関連のマニュアルや指南書、解説書を企画する出版社です。この会社も一時期業績が低迷し、2006年にパソコン販売のMCJ(6670、東2)の子会社になりますが、2015年に上田智一氏が設立した投資会社ウエノグループに約10億円で買収されます。現在の秀和システム自体の業績は好調で、直近2020年3月期の売上高は19億円、利益は7000万円ほどとなっています。

上田智一氏は1973年生まれの48歳。青山学院大学を卒業後の1998年にアンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)へ入社し10年ほど腕を磨いた後、2008年にIT・経営コンサルとして独立、起業します。その後2010年にはM&Aを手がけはじめ、ウエノグループを設立します。この会社が秀和システムを買収した上で合併し、その子会社として設立したのが今回の公開買付けの名義人となったわけです。

 

TOB成立後は上田智一社長と共に、NTTの社内起業家として有名な実業家の板東浩二氏が代表取締役に就任することになっています。二人とも企業再生では実績と名声のある方ですね。

 

公開買付の評価

TOB価格918円をもとに計算するとPBRは0.61倍

EPS ー8.8

BPS 1491.8円

自己資本比率 72.36%

資産合計747億円、うち現預金 318億円

負債 250億円

 

資産内容からするとお安いとは思いますが、経営の混乱が続いて企業価値がすり減っていきそうなこの先を想像すると、やり手剛腕経営者に買い取ってもらって建て直しを図ったほうが船井電機にとってはいいことなのかもしれません。既存株主は「安すぎる」と文句の一つも言いたいかもしれませんが、「株主責任」という概念も存在します。まあ既存株主に建て直しは結果的に出来なかったわけですから。

 

ところで、船井哲雄先生は今回のTOBには応募せず、後から403円という格段に安い価格で秀和へ売却する事になっているそうです。この値段は何なの?とちょっと気になったので妄想してみました。

思うに、先生は相続税の支払いのために大変な借金を背負ってしまっているのではないでしょうか。

相続発生時の株価がだいたい900円程度だったと思いますが、相続株数は12,359,288株ですので約110億円。事業承継の優遇税制は使えないので相続税率はMAXの55%、60億円もの相続税が発生します。いくら院長先生が高給でもこんなに払えるとは思えません。実際2019年8月23日に170万株を売却して推定で10億円のキャッシュを作っています。それでもまだ50億円ほど足らないです。50億円の金利って1%でも年間5,000万円ですよ?そして株価は迷走する業績を反映して下がってきてる...

いや、恐ろしい。私だったらこんなストレスには耐えられそうもないですよ。もうブン投げるしか選択肢はないけどこんな株数を市場で売るなんて無理だし。

403円で残りの11,738,000株を市場外の相対取引で買い取ってもらえれば47億円相続税の取得加算費特例は相続発生日の翌日から3年10か月まで使えるので、2021年5月5日が期限ですからギリ間に合うかもしれない。いや無理かな?

思うにこれは上田さんが買い叩くというより哲雄先生の泣きが入ったから、という要素が多いのかもしれません。そもそも本件のきっかけが相続税の支払いだった、という憶測なんですけどね。