オーディオのオンキヨー 2期連続債務超過で上場廃止へ

ジャスダック上場のオンキヨーホームエンターテイメント(6628)の上場廃止が事実上決定しました。2021年3月31日の18:30に東証適時開示情報(TDnet)で同社より公表された内容東証のホームページで確認できます。上場廃止事由は「債務超過」です。2期連続で債務超過になった場合には上場廃止にするという東証の規則に抵触したことが上記の公表内容で確定したためです。

東証は同時に監理銘柄に指定(確認中)しましたが、この(確認中)は有価証券報告書が提出されて数値を確認してから正式に上場廃止を決定します、という意味です。有報は期末、3月決算の同社の場合は3月31日から3か月以内が提出期限なので、つまり6月30日までに提出される有報を待つことになります。そこで「整理銘柄に指定」とされたあとさらに1か月の後、つまり7月末に取引最終日、上場廃止となる決まりです。上場廃止イコール倒産ではないですが、債務超過であるため株式価値はほぼ無価値と言って良いでしょう。

このケースでは逆に、上場している事によってエクイティファイナンスを、具体的には増資濫発による資金調達をできたからこそ今日まで資金繰りがなんとかなっていたと言えるわけです。以降予定日までに民事再生法申請や会社更生法申請、破産手続き申立などを行った場合には別の流れで上場廃止が前倒しになる可能性もあります。

 

 

オンキヨーの沿革

同社は名前の通り音響機器メーカーです。松下電器産業(現パナソニック)からスピーカーを作るために独立した五代武氏が、1946年に設立した大阪電気音響社が発祥です。当初からとにかく音にこだわる職人集団だったようで、のちのオーディオブームに乗り事業を拡大し、海外進出や輸出も伸長しました。かつて日本のオーディオ機器とはメイド・イン・ジャパンの代表的なアイテムだったのです。1980年代はソニーやパナソニックをはじめケンウッド、ビクター、パイオニア、アイワなどの家電メーカーもステレオやコンポといった音楽再生機器を売りまくっていた時代でした。

しかしバブル崩壊とともにオーディオ市場は縮小を始めます。同社も1993年に赤字へ転落し、それまで資本参加していた東芝が手を引きます。入れ替わりに現在の名誉会長である大朏 (おおつき)直人氏が資本を引き受けることとなり、それ以来2010年に大朏直人氏が一線を退いた後も現在まで大朏家が経営を行ってきました。2003年にジャスダックの前身である店頭公開銘柄として上場、その後トヨタの下請け部品メーカーのテクノ・セブン、格安パソコンのソーテックを買収したりと他分野への拡大で立て直しを図ります。

 

21世紀に入り、特に米Apple社が「iPod」を発売してからはアナログオーディオの売り上げは恐ろしいくらいに縮小していきます。2000年からここ20年程度の間にオーディオ市場の規模は3分の1以下までになってしまったと思います。日本の大手電機メーカーは音響事業から撤退し、同業者の赤井電気、山水電気は倒産に追い込まれたのです。

それでもオンキヨーはなんとか市場に踏みとどまってきました。

 

これまでの経緯

オンキヨーは2013年3月期より赤字が慢性化します。

2016年12月に「第3回無担保転換社債型新株予約権付社債の発行及び買取契約の締結に関するお知らせ」を皮切りに、株式発行の濫発を開始して資金調達を株式市場でのファイナンスに頼るようになります。このころよりすでに銀行などからの融資は受けづらくなっていたのでしょう。

以降、

「有価証券届出書」

   ↓

「第三者割当~」

   ↓

「筆頭株主の異動」

という悪循環を何度も繰り返して、前からの株主の資金は次々と跡形もなく蒸発していきました。当然ながら発行済株式数はウイルスの増殖のごとく増え続けますし、これも当たり前ですが分母が増殖するのですから分子である一株純資産もつどつど細かく裁断されていきます。結果株式価値はどんどん下がります。これは株式会社としてヤバいものをブッ込んじゃったも同然です。ヤッた直後はハイになりますが、すぐに効き目は切れてきました。次から次へとブッ込まないといられなくなっちゃったんですね。

その結果株価はベネズエラの通貨のように価値が下がっていったのです。

 

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yahoo!ファイナンスチャートより参照

 

結局新株発行によって調達した資金も業績悪化を食い止める役には立たなかったようです。 とうとう2020年9月25日に提出した2020年3月期の有報提出により東証から「債務超過の猶予期間入り」に指定されました。これが今回2021年3月31日までに債務超過を解消しなければ上場廃止、というリミットがこの時設定されたのです。2020年3月からのコロナ禍猶予特例では、同社の業績悪化はコロナ禍のせいという扱いをしてもらえなかったようです。この特例、ちょっと主観的・恣意的な基準であるような気もしますけどね。

 

この末期状態のオンキヨーにウヨウヨと肉食魚が群がりました。ここ1年はもはや決算発表など通常のIRに被せるようにして、ピラニアたちに渡す株券印刷の開示で埋め尽くされるようになってしまっています。最後にオンキヨーが縋るように渡した新株予約権は一応ケイマン籍の「EVO FUND」宛てです。

債務超過を解消するために僅かに残っている会社の資産を売却したりして、3月31日の段階で、

「あと23億円あれば何とかなる!EVOさん!権利行使して新株増資払い込んでよ!あれ50億円分あるから足りない分だけでもいいからお願いします!後生だから。頼むから今日やってください!」

とかジャンピングトゲザで靴を舐めるくらいの勢いだったのかもしれません。

 

適時開示情報にグチャグチャとPR情報を弾幕のようにアップロードを繰り返していたのは、おそらく動意付かせて株価を少しでも引き上げようという意図があったように感じます。もし万が一株価が上がれば「EVO FUND」が権利行使を行ってくれることを期待してのことだと思います。権利行使してくれれば自動的に増資されることになりますから。

とは言え元々この会社は、適時開示情報に余計な「PR情報」を載せすぎでした。これはボロ株会社の特徴の一つです。適時開示情報は会社の掲示板ではありませんし、本来はどーでもいい新製品をアピールしていい場所ではないのです。そういうのは自社サイトでやるべきで、重要な短信や有報、そしてボロ会社が隠したい株券発行のおかわりを見つけづらくするためにやってる事だと、もうみんなわかってるでしょ?

 

結局は

EVOさん

「いや、ムリやで?ソーゴー的に判断した結果ウチは今回払込みはしない事にしたったわ。そない泣きつかれてもウチらかて商売やねんで?あんたら散々駆けずり回ってたんは知っとるけどな、前に発行した株がぎょうさん紙屑の山つくってあるやろ?あれ邪魔やねん。これだけシコった株数が捌けるのにどんだけ時間かかんねや?それまで株価も騰がるんは無理や思うねん。もうバンザイしてご破産にした方がキレイになれるんちゃうか?まあウチらは再生ファンドとちゃうからどうでもええし、もう関係ないんやけどな?」

みたいな感じでお断りされてしまいジ・エンド。

そして18:30の開示になるわけです。

 

ジリ貧に追い込まれたから仕方ない、背に腹は替えられないと言うかも知れません。しかしそれでも株券印刷業は上場企業としてはやってはいけない所業です。少なくとも個人投資家はこのようなゾンビ状態にある会社の株には絶対に手を出すべきではないと声を大にして言います。それはあなたが苦心して用意したお金をイカサマで巻き上げられるのとまったく同じ事ですよ?

はやく成仏させてあげる方が生き霊も幸せだと思いませんか?

まあ7月末までの3ヶ月間、存分にババ抜きを楽しむのがよいご供養になるでしょう。

 

 

 

今回登場した市場のピラニアこと、元アメフト選手のマイケル・ラーチ氏率いるEVO FUNDが、日本の株式市場でどんな事をしているかについて、また別の記事で触れたいと思います。