新聞報道などである通り、今年最大級と話題の新規上場案件が東京メトロです。
今から2年前の2022年5月に上場すると報じられ幹事証券がすでに指名されていますが、そろそろ詳細がどうなっているのか気にされている方も多いようで結構問い合わせが来ています。今年1月に日経新聞で記事になってましたね。
●東京メトロとはどんな会社?
東京メトロのロゴ
正式な社名は「東京地下鉄株式会社」といい、帝都高速度交通営団(営団地下鉄)が2004年に民営化した会社です。
東京都の地下鉄のうち、
日比谷線、銀座線、丸の内線、東西線、南北線、有楽町線、千代田線、半蔵門線、副都心線の9路線を運営しています。
日本では16番目の大手私鉄とされており、年間乗降者数はJR東日本に次ぐ2位で約27億人。私鉄では東急の2倍を運んでいます。
1927年(昭和2年)の年末に今の銀座線の一部である、上野ー浅草間の運行を開始したのが始まりです。現在の本社が上野にあるのはそのためでしょう。
ややこしいのですが、浅草線、三田線、新宿線、大江戸線の4路線は「都営地下鉄」が運営しています。これは東京都直営の地下鉄でして、都営地下鉄は東京メトロとは別の会社です。路線図では一緒に載ってるのでふつう意識して区別はしないですよね。
●業績
先週5月8日に東京メトロのホームページで2024年3月期の決算発表がアップされてました。
https://www.tokyometro.jp/corporate/ir/2024/pdf/202403_kessan_jyoho.pdf
売上高 3892億6700万円
営業利益 763億5900万円
経常利益 658億6600万円
純利益 462億6200万円
発行済株式数 5億8100万株
一株純利益(EPS) 79.63円
一株純資産(BPS) 1150.42円
一株配当 20円
自己資本比率 33.0%
株主資本利益率(ROE) 7.3%
前々期の2022年3月期まではコロナ禍の影響で最終赤字が続いていましたが、ここ2期は黒字となっています。上場の下拵えはほぼ出来たのではないでしょうか。
●現在の株主構成
財務大臣 53.42%
東京都 46.58%
今回売り出す株式は全体の50%で、国と東京都がそれぞれの持分の半分ずつを出し、残り50%を引き続き保有する予定です。
2014年4月23日に旧西武鉄道が西武ホールディングス(9024)として再上場する際に、再建の過程で資本を出していたアメリカ不動産投資ファンドのサーベラスと揉めた事例がありました。そのせいもあって上場後もどこかの株主に難癖を付けられても大丈夫なようにしておくつもりのようですね。
とすれば増資分はないでしょうから希薄化(ダイリュージョン)もありません。公募売出しの株数は5億8100万株の半分、2億9050万株となります。
幹事証券に指名されているのは野村、みずほ、三菱モルスタ、ゴールドマン・サックス、バンカメの5社です。2022年5月25日に財務省より発表済みです。
https://www.mof.go.jp/policy/national_property/list/stocks/uridashi/20220525.html
(財務省ホームページ)
海外売出しも含めてこの5社が取り仕切り、ほかに国内証券各社がシンジケート団に組み入れられて公募の申し込みを受付すると思われます。
●公募価格はどれくらい?
東京メトロにはハッキリ言ってしまうと成長性はほぼありません。NISAで買うべき銘柄ではないと思います。
そもそも地下鉄事業は莫大な設備投資と運営コストがかかりますが、公益性が高いのである程度の公的資金を投入する必要があります。東京メトロにおいてはもう新規路線の設置はストップする段階で民営化するというのが既定路線だったのです。
現在上場している類似銘柄として私鉄各社の一株純資産倍率(PBR)を見てみると
京成 2.08倍
東武 1.07倍
西武 1.61倍
京王 1.19倍
小田急 1.30倍
京急 0.92倍
(2024年5月15日終値ベース)
とPBR(一株純利益倍率)は1.36倍くらいです。
とするとPBR1.3倍として、一株純資産1,150円×1.3だから、公募価格はだいたい1,500円くらいでしょうか。無論仮条件には上下数百円の幅を持たせるのですが。
ちなみに東京メトロは私鉄各社と比べて貸しビルのような不動産による収益の比率が低いです。これは地下鉄事業は仕事柄、地上の土地をあまり保有していないからです。そこはメトロ自身も課題と思っているようで、最近私募REITに参入すると発表したり子会社にハッパをかけているようです。東京観光バスツアーでお馴染みの「はとバス」にも出資しているんですね。
株として人気が出るとすれば、私鉄各社がやっている株主優待制度をこれからつくるかどうかでしょう。私鉄各社はそれぞれ株数に応じてタダで乗車できる回数券または定期券を優待でくれます。この点東京メトロはまだ未設定です。
ただ株主優待は外国人投資家には極めて不評です。
「オレら外国人には実際使えないんだけど。差別的じゃね?」
「郵送費がムダだよね。配当してカネでくれる?」
「株主に商品を安売りするって事?その分業績下がるんじゃないの?」
と、日本特有のガラパゴス的制度扱いです。
今回は海外売出しも伴うので外国ウケの悪い優待制度を新しく作るかどうかは、ちょっと微妙な気がします。
ただ上場時に想定で時価総額9000億円規模の大型案件ですし、運用サイドからすればそれなりの額をポートフォリオに入れざるを得ない銘柄でしょう。たぶんTOPIXにも採用される事になるのでインデックスファンドの需要は十分にあります。
●上場の発表はいつ頃?
まだ東証に上場申請したという報道はありません。もともとは2009年度までに上場という話から、延び延び東日本大震災の復興予算としてアテにしていたのがさらにコロナ禍のせいで延びきってしまった話です。報道ベースでは「2024年夏頃をメド」との事ですのでそろそろやらねばと言うタイミングです。
決算発表の資料に株主総会は6月25日と書いてありました。手続き上はそこで国と東京都と具体的な話をして東証と幹事証券に日程を相談するのでしょう。
順調に行って今年2024年7月初旬に東証へ上場申請を出し、7月後半から8月中旬くらいに公表、その2週間後の8月末募集開始みたいなイメージじゃないですかね。