上場廃止企業列伝 ニューシティレジデンス投資法人

ニューシティレジデンス ( 8965、東R )は2008年10月9日に破綻しました。J-REITではいままで唯一の倒産です。民事再生法申請を行い 2008年11月10日に上場廃止となりました。倒産に至った直接の原因は資金ショートを起こしたためです。

「は?REITって倒産すんの?」というのが当時の一般的な受け止め方でした。

運営会社シービーアールイー・レジデンシャル・マネジメントはアメリカの不動産会社シービー・リチャードエリス(現社名CBRE、コールドウェルバンカーリチャードエリス)による運用会社でした。

2008年10月といえば、前月の9月15日にリーマン・ブラザーズが破綻したその翌月です。数年前からアメリカではサブプライム・ローンの焦げ付きが拡大しており、2017年夏頃より日米ともに株価指数が大幅下落するなど、すでに市場は不穏な空気に包まれていたのです。2008年7月18日には中堅マンションデベロッパーのゼファー(8882、東1)が民事再生法申請により倒産するなど国内の不動産市場では破綻の足音が耳につくようになりました。不動産関連の企業、特に開発を手掛ける業態では多額の資金が必要になるため借入も多額になりますが、当然自己資本比率が低くなります。つまりなにかの拍子で資金決済が出来なくなったり思わぬ損失が出たり、または金融機関等資金の出し手の事情が変わったりするとあっという間に倒産してしまうリスクがあるのです。特に景気後退期や信用リスクが顕在化する市場の局面では注意が必要です。

実際、ゼファー以降も、アーバンコーポレイション(8868、東1)、創建ホームズ(8911、東1)、Human21(8937、JQ)、リプラス(8936、東マ)、シーズクリエイト(8921、東1)、ランドコム(8948、東2)、エルクリエイト(3247、JQ)など、不動産関連企業が次々と倒産していきました。特に9月は19日の創建ホームズ倒産から2週間ほどの間に立て続けに5社の倒産が発生しています。

 

この倒産ラッシュが起きる前の2003年後半ころより、日本の不動産市場は1980年代以来のミニバブルに湧いていました。米国を始めとする低金利政策や原油など資源高の影響によって世界的に資金がダブつき、運用対象先として日本の不動産が注目されたのです。1990年のバブル崩壊から安くなっていた日本の不動産でしたが、2001年に「J-REIT」が創設されたため資金の受け皿として活況を呈するようになってきたのです。

「J-REIT」とは日本版不動産投資信託(Japan Real Estate Investment Trust)のことです。これは個人が不動産投資をしようとした場合にはとてつもなく面倒がありますが、それを運用会社が代行し、資金をまとめてやりましょう、という仕組みです。

これによって投資家は通常個人では手が出せるはずもない巨大で優良な物件に投資することができる上、維持管理などをオペレーターに代行させた上で税金も優遇措置をうけられるというメリットをもたらしました。運用会社は主に大手不動産会社などが行い、オペレーションの面倒も見ます。投資家にとってメリットも多いのですが、運用会社にはオペレーション収益が安定的に入ってきますし、何より自分で開発した物件の確実な買い手を確保できるという点などでもメリットがあります。そしてこの会社を株式のように上場させることによって投資家は売買が簡単にできていつでも買え、いつでも売れる流動性が手に入りますし、運営側は増資などによって資金調達が比較的簡単に行えるようになります。

ただ難点として、REITは内部留保が出来ないという事があります。これは家賃などの物件収入のほとんどを分配金として配当することを条件に法人税が免除されるという優遇税制があるためです。つまり運営側が「おっ!いい不動産物件がある!これを買って運用したいな!」と思っても今持っている不動産物件を売却しない限り手ガネは無いのです。そのため資金を作るためには基本的に増資か借入を行わなくてはいけません。また、基本的には運用利回りをアップさせるために投資家から集めた資金と同じくらいの金額を借入して物件を買っています。つまり投資家にとってはレバレッジ2倍くらいが自動的に組み込まれているのです。このレバレッジ率を「LTV」といいます。(REITの仕組みやメリット、デメリットについては詳細はいずれ別途記事にしたいと思っています)

 

ニューシティレジデンス投資法人の話に戻ります。

ニューシティレジデンスは元々このLTVが比較的高い運用を行っていました。その上で前年の2007年12月18日、「池袋プレシャスタワー」というタワマン物件の買付契約を約277億円で結んでいたのです。その代金支払はおそらく増資することによって資金調達するつもりだったのでしょう。しかしすでにこの2007年末というのは前述の通り市場が不安定になりつつあったため実際増資は出来ませんでした。REIT全体の株価が下落を始めたため、必要とする株価で増資ができなくなり資金が足りなくなってしまうことになったのです。

おそらく運営側は、

「まあなんとかなるやろ。数ヶ月もすれば株価も市況も戻るだろし、銀行も普通に貸してくれるんちゃうの?」とタカを括っていたのかもしれません。

しかしそうは行きませんでした。手をこまねいている間に時間は過ぎ、景気は最悪の状態を迎えます。銀行は買った物件の内容を見て、

「ちょっとちょっと!買ったこの物件の資金に充てるって言うけど、これ高すぎたんちゃいます?ホントにこれ元は取れるんでっか?今こんな景気やしウチら銀行も貸倒いっぱい起きそうなんですわ。今回ウチの銀行は手を引かせてもらいますんで!」と追加融資を断られてしまったのでしょう。さらに、

「あ、今度の10月17日に全部一括で返してもらう約束の45億円は予定通りよろしゅう頼んます。」とすでに借りていた融資の返済も迫られていたようです。

とりあえず買った池袋の物件の代金を支払えないのならば違約金を払う必要がありますが、その金額は約束の金額の20%である約55億円を返さなくてはなりません。しかしその資金がどうやっても期日までに調達できない・・・・

 

こうしてニューシティレジデンスは破綻します。

身の丈に合わない巨額投資を、無理をしてあまい見通しで行ってやっちゃった能天気さが原因だったと言えます。不動産という実物に投資する仕組みは収益が読みやすいため破綻しづらいものである事、他に破綻したJ-REITは無いことを見ても、ハッキリ言ってニューシティレジデンス投資法人とそのオペレーターであるシービー・リチャードエリスは極めてポンコツだったという、プロとしてありえないミスをしたわけです。

 

破綻したニューシティレジデンスはその日、終値は71,000円でした。11月7日の最終売買日の終値は14,200円と大幅に下落して終わりました。しかし倒産したと言ってもニューシティレジデンスは資金ショートしたというだけで債務超過にも赤字になったわけでもなかったのです。後日のことですが、同年11月28日に倒産したモリモト(8899、東2)が運営するビ・ライフ投資法人(8984)と2010年4月1日合併し、売らずに持ち続けた株主は実質的に売買が可能になりました。合併比率はビ・ライフの投資口(株式)を0.23口割当になります。合併上場したこの日の初値396,500円は0.23をかけると91,195円となるため、民事再生法申請を行ってから売却した人は慌てて損をしたというオチが付きます。さらにその後、同投資法人の運営を引き受けたスポンサーの名を冠して「大和ハウスリート」と銘柄名変更を行い、さらに2016年9月1日には「大和ハウス・レジデンシャル投資法人」と合併して現在に至ります。

 

倒産というとたしかに100%減資になることが多いため1円でも売ったほうが税制上有利なことは多いのですが、このように必ずしも全損であるとは限りませんし、単なる上場廃止であればネガティブなものでもその後の合併や買収、精算によって売買最終日の株価より高く戻ってきた事例も往々にして発生しています。慌てずに中身や見通しをよく考えてからどうするか決めるべき、という良い事例ですね。