ワタベウェディングがコロナ禍直撃でADR申請 名古屋の興和に救済され上場廃止

コロナ禍で苦しみ債務超過に陥っていた海外挙式のワタベウエディング(4696、東1)が、2021年3月19日引け後に事業再生ADR (私的整理)申請により金融機関へ債務免除を要請し、スポンサーとして名古屋の巨大非上場企業である興和が救済する運びとなりました。ADR申請については読売新聞の報道で朝方6時台に流れていましたね。引けの株価は352円 (ー63円、15.2%安)でした。

興和は

1、第三者割当増資として20億円を引き受ける

2、既存株主へ1株当たり180円を支払い強制買受(スクイーズ・アウト)

3、大株主の千趣会(8165、東1 通販のベルメゾン)などからワタベW株を無償譲受

4、ワタベWは興和の完全子会社となる

などの条件で支援を引き受けることが決まったそうです。東証の規定では債務免除額が債務の10%を超えた場合や、完全子会社になった場合は上場廃止になる決まりがありますのでこれに該当します。これを受けて本日付で東証は同社を監理銘柄(確認中)に指定しました。2021年6月25日が同社株式の売買最終日になります。

1997年に大阪証券取引所・京都証券取引所に上場して約24年で同社は株式市場から去ることになりました。

言わずもがなではありますが、ADR申請は「倒産」ではありません

あくまで銀行融資の減免お願いであって、事業は継続される前提の手続きですし、旅行代金や晴れ着のレンタル料をパクって夜逃げしたりといった心配はないでしょう。

 

ワタベウエディングの沿革

ワタベウエディングは大正生まれの女性、渡部フジ氏によって創業されました。今から70年以上も前、太平洋戦争終結により戦地から兵隊さん方が帰還し、やっと待ちわびた平和な時代の中で結婚が増えました。しかし荒廃した当時にはろくに物資はありません。式を挙げようにも食料すらない時代です。フジさんはそういった人たちにせめて衣装だけでも、と自分たちが結婚式で着た夫婦の振袖と紋付袴を貸してあげたそうです。この二人の貸した衣装がワタベウエディングの原点でした。

この衣装はそれから多くの新しい夫婦に貸し出されて、それぞれの幸せな門出を飾り、京都中の評判を呼びます。貸し出し希望者が引きも切らなくなったため、結婚式のための貸衣装を生業としてフジさんと夫の泰次さんは1953年に「ワタベ衣装店」を創業します。1978年には息子さんの隆夫さんが社長に就き、結婚式というイベントそのものをプロデュースするようになります。その後ハネムーンの海外旅行先で挙式というそれまでの日本にはなかった結婚式のスタイルを定着させました。現在では「海外挙式といえばワタベウエディング」というブランドを確立するまでになったのです。1997年10月に 大阪証券取引所2部と京都証券取引所に上場を果たし、2000年11月には東京証券取引所2部にも上場、2004年3月には東証1部へと鞍替えします。同年に昭和初期から続く料亭・結婚式場の目黒雅叙園を子会社化、2008年には民営化されたゆうちょ銀傘下のゆうちょ財団からホテル事業「メルパルク」の運営を受託するなど事業を拡大してきました。

ところが、2020年2月、世界にパンデミックが猛威を振るいはじめ、ワタベウエディングが行う結婚式・ホテル・旅行などの事業は致命的なダメージを受けます。

 

業績とコロナ禍のダメージ

まずもって、ワタベのメイン事業である海外挙式は渡航制限によって出国すらできない状態になりました。さらに密や人の集合、会食を自粛する要請が出されたために国内でも結婚式自体をできない状態になったのです。そのため国内での式場である雅叙園やメルパルクの売り上げはほぼ消滅。この子会社2社が大幅な赤字に転落、債務超過になります。この2社は前期2020年12月期に65億円近い損失が発生し、債務超過額が50億円とわずか9か月で自己資本が吹っ飛んでしまったのです。

 このためワタベ本体も連結で117億円の最終赤字、8億6300万円の債務超過に陥りました。

 

 

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利益率(ROE・ROA)

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 ワタベウエディング HP 業績ハイライト より抜粋

上記のグラフなんかもう、営業利益・経常利益や利益率のグラフなんか財務の人たちの怒りというかヤケクソ感すら漂っています。マイナスのROEとか要らないから!

でも現場の社員さんもどうしようもないですもんね。頑張りようがないもの。

  

救済する興和とはどんな会社?

名古屋の巨大非上場企業、興和様のご厚意でワタベの既存株主から1株180円で買い取りいただけることになりました。債務超過であるにもかかわらずですよ?千趣会は200万株(180円を掛けると3.6億円分)をタダ同然で取り上げられちゃうんですからね。

興和はこれまでも2014年に破綻した白元の「ホッカイロ」事業、2015年に破綻した福井県の江守グループなどを吸収して事業再生に手腕を見せてきました。

興和は明治期から続く老舗企業で、祖業は木綿などの繊維製造と販売を行う会社です。戦中に社名を興和に変え、戦後直後から医薬品の製造に乗り出します。

皆さんも耳にしたことがある商品では「キャベジンコーワ」「キャベ2コーワ」「液キャベコーワ」「キューピーコーワ」「コルゲンコーワ」「ウナコーワ」「バンテリンコーワ」などの医薬品はCMなどでもおなじみでしょう。

 

そのほか興和は生活物資や光学製品の部門もあり、売上高は連結ベースで4225億円、純資産は1126億円を誇る、そのへんのショボい上場企業をはるかに上回るコングロマリットです。その一部門として不動産・ホテル事業も手掛けており、おそらくワタベウエディングはここに組み込まれるものと思われます。

 

本件の影響

上記の「第三者割当による新株式発行及び定款の一部変更、株式併合及び単元株式数の定めの廃止等について」で、スポンサーになってほしいと事業会社21社、金融投資会社30社に打診したがほぼ全てに断られた経緯が記載されています。そして今月末が期限の借入113億円も返せる見込みがまったく無いこと、興和だけが具体的な検討先として残ったことなどの記載もあります。

親会社のベルメゾン千趣会はおそらく最初に支援を求められたところでしょう。しかし千趣会自体の業績も芳しくないため、JR東日本から2019年9月に自社株を20億円で買い取ってもらい支援を受ける側の企業になってしまっていました。

 

 

ちなみに、同様に昨年ADR申請で債務カットしながら中華の人に中途半端な注射をされて、いまだ死線を彷徨っている倉元製作所は、完全子会社にはしてもらえなかったから上場廃止にならなかったのです。

 

債務超過や監査意見不表明での上場廃止基準抵触でもコロナ特例で猶予期間は伸びています。

しかし資金繰りはまた別問題。それにいくら無担保無利子のマル保融資でも借金は借金。よく考えたら債務超過解消の解決策には全くならないわけです。

 

蔓延から1年がたち、そろそろ体力的にもうもたない企業や業界が出てきて、本件のようなことが大量発生する足音が近づいてきている気がします。

債務超過企業リストや親会社などバックの体力が低そうなところもチェックしておくべきでしょう。