新規上場JX金属はどんな会社?由緒正しいシンデレラ企業の出奔

JX金属(5016)が3月19日に東証プライムに上場します。

日程は仮条件決定が3月3日決定し810〜820円となりました。ブックビルディング期間が3月3日から3月7日、価格決定予定日は3月10日。その翌日3月11日から3月14日が申込期間(買付入力期間)となります。

日経などの新聞で「申込期間」とあるのは、事前にブックビルディング(購入希望)に申し込んでいた人が、証券会社から配分株数を通知された分の買付をできる期間のことです。先にブックビルディングに申し込んでいない人は基本的に配分は受けられませんので勘違いしないようにしましょう。

 

目論見書記載の想定価格は862円でしたが若干低めで決まった仮条件の上限820円で計算すると想定時価総額は約7600億円。

上場時の発行済み株数は9億2846万3102株。

そのうち約3億7445万株を国内で、海外で約1億6000万株を公募売出しするので上場時の募集売出額は約4386億円、増資分はなしです。現在株式の100%を保有するENEOSが約40%を放出します。

主幹事証券は大和証券、みずほ証券、三菱UFJ、JPモルガン、野村證券、日興です。トップの大和が全体の半分程度を引き受けているようです。

募集金額ベースで直近の大型IPOと比してですが、東京メトロの3500億円、キオクシアの1200億円を見てもとにかく大きいです。

親会社ENEOSからしてみれば要は切り離し案件と言う事です。つまり東芝のキオクシアと似たパターンですね。ただし親会社が金に困ってるわけではなく、三菱ケミカルが東京田辺製薬を切り離したがっているような、「コングロマリット・ディスカウント」(手広く事業をやり過ぎて無駄に散らかってる非効率な状態)を解消をしたいという話とほぼ同じ意図と思います。

 

JX金属の「X」は「未知の」を表しているそうです。

証券コード「5016」は2010年3月19日に新日本石油と経営統合する際上場廃止した新日鉱HDのコードを引き継ぎます。JX金属としては生まれ変わった会社という体で違うコードを欲しかったみたいですが。

 

形としては2002年に創業となっていますが元々の歴史は大変古く、明治時代の富国強兵政策で国中を掘りまくったうちの一つ、日立銅山が発祥(1905年)です。大正期に「日本産業コンツェルン」となり、鉱山事業は「日本鉱業」、のちに電気機械部門は「日立製作所」へ、輸送機械部門は「日産自動車」へと発展していきます。まあこの2社とは「ひいじいさんが同じ親戚」といったくらいの間柄です。

本家のマイニングを行う日鉱は秋田県で原油を掘り当てたため拡大し、石油事業部門はジャパンエナジーとなります。かつては「JOMO」ブランドでガソスタを運営したり、コンビニ事業「am/pm」(サークルKサンクスに吸収後ファミマへ。コンビニ発祥のアメリカではガスステーションと併設されていることが多い)を手掛けたりしてた会社ですが、この金属鉱山と石油の2社が新日鉱ホールディングスとなり、2010年に新日本石油と統合して「JX」となり、2017年4月に東燃ゼネラルと統合して「JXTG」となり、2020年6月に今の「ENEOS」となりました。21世紀の日本企業は合併と社名変更の繰り返しなんですよね。

 

石油事業の傍流となった金属鉱山部門を切り離すためのIPOなので、新規上場という一般的な真っさらなイメージとは異なる話ですし、本件は成長性というより割安感で勝負です。ただし現在は銅山などの多くを売り飛ばして主力製品は半導体部材メーカーと業態は変貌しています。希少金属であるチタンを製造する東邦チタニウムも子会社に持っていますし、2024年秋には上場企業タツタ電線もTOBで買収しています。

 

業績についてですが、2024年3月期に海外に持っていた銅山を売っ払い利益はガツンと出ましたがその分2025年3月期は売上高が減ります。

 

一株純資産(BPS)=675.73円

一株純利益(EPS)=58.48円

820円の前提で計算すると

株価収益率(PER)=14倍

株価純資産倍率(PBR)=1.2倍

株主資本利益率(ROE)=8.65%

と、まあ割安っぽいけど利益率が少し不満。

 

予想配当ですが、2025年3月期の通期配当は103.55円となっています。

あれ?820円で決まったら年間の配当利回り12%ってマジすか?と思いましたが、すでに配当済みである分が91.55円であり、次回配当である今3月末の配当金は12円です。年換算利回りで1.46%くらい。

つまり現時点での親会社ENEOSに駆け込みで利益献上させられたのか手切れ金という仁義を払ったのか分かりませんが、公募で買う新株主にはそこまでの配当利回りにはならないという事ですね。

 

はたから見た感じは、由緒正しい血統のお嬢様が政略結婚で来た継母から冷遇、搾取されているのを我慢できずに自立して家を出ようとするしっかり者、といった趣きを覚えます。おそらく彼女には魔法も王子様も必要ないのでしょう。

 

まあ初値勝負というより、4月末のTOPIX、数ヶ月後のMSCI指数(平たく言えばNISAでお馴染み「オルカン」)などの指数組み入れや機関投資家の買いを期待するのが本筋ではないでしょうか?時価総額300億あれば運用機関は買い対象に出来ますし。当面の値動きはそれこそ東京メトロに近い感じじゃないかと。

ちなみにロックアップは2025年9月14日までですので、値持ちがよければ半年後には追加の公募売出しが発表されるかもしれません。

なにぶん今嫌われている親子上場になってしまいますから。