IPO申請三度目の正直?ウイングアーク1st (4432、東1)の上場について
2021年3月16日にIPOするウイングアーク1stですが、「新規上場」とは呼びたくない引っかかりを感じる案件です。前身の「1stホールディングス」のMBOから7年半後の再上場、そして2年連続の上場中止を経ての「IPO」ですよ?複雑な気持ちで見ている関係者は多いでしょう。
事業内容と沿革
ウイングアーク1st (ウイングアークファースト )は企業の情報活用を促進するソフトウェアおよびクラウドサービスの提供事業を行う会社です。主な事業セグメントは以下の2つ
1、帳票・文書管理ソリューション
平たく言うと、宅配物に貼り付いてる送付先の伝票などを「統一規格にしたら便利じゃね?」という発想から伝票・帳票を電子化しみんなに使ってもらおうという事業。結構普及している。
2、データエンパワーメントソリューション
データ処理をクラウドでやることにより、会社の方針をいろいろ早く決定できます、というサービス。米セールスフォースがお友達。
元をたどれば同社の起源は、自動車修理システム及びフランチャイズの「カーコンビニ倶楽部」を創業した下町のシステム開発企業、翼システム株式会社まで遡ります。1993年に同社の情報企画事業部という社内ベンチャーが発足し1995年に今の主力事業である帳票基盤ソリューションというビジネスを開始しました。事業自体は順調に拡大していくのと裏腹に、この会社は社長と取締役たちが1999年に脱税でパクられて懲役を食らうなどいろいろあって倒産してしまいます。その事業部長だった内野弘幸氏が2004年3月に部ごと独立して渋谷の青山学院の近所に引っ越した際、社名を「ウイングアークテクノロジーズ」としたのが実質的な創業と言えるでしょう。
同社の業績は拡大を続け、「1stホールディングス」という持株会社体制に再編後の2010年12月1日、当時まだ大阪証券取引所であったジャスダック(スタンダード)へ上場を果たします(証券コード3644、主幹事は大和証券)。
ちなみに公募価格630円に対して初値は570円と公募価格割れでした。
翌2011年3月10日、それより1年ちょっと前に上場廃止していた「バリオセキュア・ネットワークス」(2020年11月30日東2に上場したバリオセキュア、4494の前身)を買収するとの発表を行いました。この発表から約24時間後に東日本大震災が発生します。
2012年2月6日に東証2部へ重複上場しますが、2013年4月5日にオリックスの支援により内野弘幸氏がマネジメント・バイアウトを行うと発表します。TOB価格は800円。それまで出資していたアドバンテッジ・パートナーズは撤退しました。2016年3月にはオリックスが撤退し代わりにカーライル・グループが出資。2016年6月に子会社バリオセキュアを売却します。2018年5月に内野氏は会長に退き田中潤副社長が代表取締役社長に昇格します。ただ内野会長は以後も同社の実質的な主要株主であり内野氏が舵取りを続けています。
2019年1月31日に東証の承認があり、同年3月13日の上場が決定します。募集株数は2,095,500株、仮条件は1,690円~1,970円でした。ところが3月4日になって「海外投資家を中心に新規株式公開(IPO)に対する投資意欲が低下するなど、市場環境が悪化しているため」として上場中止を発表します。前年末に超巨大IPOソフトバンク(9434、東1、携帯のほう)が株式市場に隕石落としを敢行し、そのインパクトで市場から資金が枯渇してしまったためでしょう。12月21日上場のドローン屋さん自律制御システム研究所(6232、マ)が公募割れを起こし、12月25日上場予定だったひふみ投信レオス・キャピタル(7330、マ)も中止となりました。なんとなく市場に飽和感が漂う中で451億円という募集金額は申し込みが入らなかったのでしょう。
翌2020年2月20日に再度上場の承認が下ります。3月26日の上場を目指しますが、ご存じの通りあのウイルスが蔓延をはじめたため、この年前半の上場予定だった案件は軒並み中止に追い込まれてしまいます。同社も3月10日に仮条件も決まらぬまま取り下げを発表しました。ちなみに募集株数は15,517,100株、想定募集金額は約281億円でした。
そして今回、「3度目の正直として再上場」という数奇なIPO案件になったわけです。
業績
ウイングアーク1st 株式売出届出目論見書より抜粋
業績はもちろん悪くないです。売上高、利益伸びもそこそこ。
2022年2月期の予想EPS(1株利益)は 134.16円、予想ROEは14%程度なのでむしろ巨体のわりによく稼げていると言っていいでしょう。
現在の株主
1、CJP WA Holdings(保有割合34.79%)→アメリカの投資会社カーライルのハコ、今回エグジットする主体。12,229,830株の保有分のうち10,634,700株を放出し残り1,595,130株(約5%)を引き続き保有。
2、IW.DXパートナーズ(同21.75%)→伊藤忠とCTC(伊藤忠テクノサイエンス)の合弁投資会社
3、東芝デジタルソリューションズ(TDSL)(同13.1%)→1位株主CJPから昨年末に株を分けてもらった。2020年1月18日に子会社東芝ITサービスで粉飾(チャレンジ)発覚
4、Sansan(同6.81%)→取引先、2019年マザーズ上場した名刺管理サービスの会社
5、PKSHA Technology(同5.00%)→取引先、2017年にマザーズ上場した人工知能屋
6、モノリス有限責任事業組合(同3.98%→1stHDのMBO時に作った内野弘幸氏のハコ
7、鈴与株式会社(同1.53%)→取引先の静岡市清水区の巨大老舗非上場会社、エスパルスの親
それぞれロックアップが90日間かかっています。
カーライルがエグジットした後は伊藤忠と東芝TDSLの影響力が強い会社になります。
募集の概要
発行済株式31,198,000株のうち10,634,700株(約40%)を全部売出で放出します。増資分はありません。
再上場の主幹事は野村証券です。当然ですが去年も一昨年も野村です。さすがに今回も中止になったらどうなってたか色々わかりませんけど。
野村証券が公募株数の半分弱を配分します。残りは三菱系2社が半分弱を引き受けており、この3社で手分けして約195億円の募集の大半を片づける予定です。
仮条件は1,440円~1,590円、公募価格は3月8日(月)に決定の予定。
オファリングレシオは39.2%と高め。①73.4%→②54.0%→今回と学習してきた感はあるがファンドのエグジット再上場という本質は変わらない。類友のバリオセキュアくんも3分の1規模にもかかわらず昨年11月の再上場では一敗地にまみれた事を考えると、ちょっと初値が高くなるのは厳しいんじゃね?
ゴリゴリ証券のちから技、初値形成や以後ちょっとの間はノムラ気合の「誠意」が見れるかも、と川下からニヤニヤ見つめようと思っています。
同日上場ヒューマンクリエイションの記事です