大戸屋の凋落に見える社会構造の変化と日本企業の生きる道

買収されるまでの大戸屋は何がいけなかったのか?

 

2020年9月8日に敵対的TOBが成立し、大戸屋はコロワイドの軍門に降ることがほぼ確実になりました。

いまさらな話で、なおかつ部外者の勝手な後出し意見にはなりますが、大戸屋はなぜこんな事になってしまったのでしょうか。

そして大戸屋のこのダメダメな事例から、多くの日本企業が抱えている病理について考えてみたいと思います。

 

原因は大きく分けて以下の2つにあると思います。

 

1、内紛による資本関係の主体性喪失

以前の記事でも言及しましたが、この話は創業者三森久美氏が57歳という若さで急逝した事から始まります。相続対策が全く取られていなかったために、意図する後継者へのオーナーシップ移転に齟齬が生じたのです。これにより遺族の三森家、現経営陣の窪田健一氏、メインバンクから来た河合忠直相談役との三つどもえの内紛が起きてしまい、経営が大混乱に陥ってしまいました。

三森久美氏が倒れた時から何か対策は打てなかったのでしょうか?日経ビジネスなどのインタビュー記事を見てみると、三菱UFJ信託で遺言信託を組んだとのことですが、その程度では相続税が安くなったりはしないでしょう。

現経営陣の窪田社長としてはどんな心境や意図があったとしても、ほかにめぼしい比率を占める大株主がいない以上、筆頭株主である遺族の機嫌を損ねたのは大失策だったとしか言いようはないと思います。仲違いした遺族が大人しく株を保有し続けるとかマジで思ってたならどうかしてるでしょう。智仁氏がコロワイドに売り飛ばすまで4年近く、資本提携らしき話が一つも出てこないとか怠慢すぎやしませんか?その間従業員やFC加盟者はどんな気持ちだったのでしょうね。少なくともコロワイドが出てくる前にホワイトナイトを探すべきだったわけです。もちろん結果論なんでしょうけどね。

従業員持株会は代表取締役が議決権権限があるのだから、もっと買い増しを促すとかやりようはあったのでは?そもそも窪田さん本人が上位株主にお名前出てこないとかホントにやる気あったんすか?

 

ちなみにですが、相続した株の大半を手放した今となっては、三森智仁氏はコロワイドの使い走りに過ぎません。たとえ取締役に復帰したとしてもせいぜい創業者血筋の正当性を主張するためのお飾りなのであって、極めて情緒的な話であり経営や資本という本筋からしたら的外れもいいところです。ただそこに効果があるのなら何でも使おうというのはそれなりに意味はあるのでしょう、たとえ下品と謗られても。

株式譲渡時にどんな取り決めが行われたにせよ、智仁氏はすでにコロワイドの意向を汲んで動くしか大戸屋に関わる事ができないわけです。それがたとえ亡き父のビジョンに反していたとしても。

 

最近は新規上場する企業の結構な割合で上位株主がオーナーの資産管理会社になっています。株式の評価額がまだ安い上場前にオーナーが自身の保有株を売却し、相対取引でオーナー家が設立したペーパーカンパニーに買い取らすのです。ペーパーカンパニーの株式を相続する方が上場株を相続するよりはるかに評価額は低くなりますし、そもそも自然人と違い法人は肺がんで急逝したりはしません。

まだまだ日本の企業にはオーナーの相続発生リスクを認識できていなかったり、対策をほとんど行っていないところが多いのです。結果、オーナーの急逝後にゴタゴタが起きても後の祭りになっちゃうのですね。

急な相続発生に対処できるように、資産管理会社を設立し保有株の名義を移転させておくなどの相続対策。これは経営の混乱を防ぐために上場企業のオーナー経営者にとってほぼ必須と言って良いでしょう。

 

2、営業戦略上の問題

2020年に入って発生したコロナ禍より前から、すでに大戸屋は業績が低迷していました。

2019年4月に主力商品の値上げを強行した結果、値段据え置きのライバルやよい軒などに顧客が流れてしまったと言われています。国内市場は元々飽和状態で長いことデフレが続いています。

日本社会はアベノミクス以降階層が二極化し、マス層 (中間層、ボリュームゾーン )が痩せ細っており、2010年代前半と比べてその層の可処分所得が減ったという現実があります。外食に出せる予算が減ったのです。かつてのターゲット層が消滅しつつあり、コロワイドが得意の「味はそこそこ価格は安い」路線が嫌なら既存の顧客層は見切って高級路線にシフトするしか道は無かったのではないですか?

シャバが何と言おうとカネを払わない人はお客様じゃありません。そこは気にしてもしょうがないのでは?

 

大戸屋は海外展開をもっと早くすべきだった。

ここ10年くらい前から、ニューヨークはじめ海外の都市部は日本食が人気です。

力の源HDが運営する一風堂、旧ラディアHD (かつては人材派遣、介護事業のグッドウィル )創業者の折口雅博氏が運営する「MEGU」など海外の和食レストランは国内単価の数倍でも大人気なのは有名な話です。

実は大戸屋は意外と積極的に海外展開をしています。会社のホームページで確認すると、大戸屋以外のブランドを含めてアメリカで4店舗を運営しているほか、タイに47店舗、台湾39店舗、インドネシア11店舗、香港5店舗、シンガポール3店舗、ベトナム2店舗を出店しています。大戸屋ニューヨーク店も現地では有名な人気店として、パンデミック前は大変賑わっていたそうです。

海外事業では直営店の比率は少なく、フランチャイズ方式での出店がほとんどなので利益率は45%と、なかなかにいい商売をしているようですね。

たしかに海外事業はどんな業種でも色々と難しいでしょうけど、業績の伸びた大企業というのはおしなべて海外進出を成功させています。人口減少が確実で国民の大半が貧困化していく国なら他に手はないのは子供でもわかるでしょう。

国内で負け戦にリソースを消耗するくらいなら、とっとと国内事業を損切りして高く売れる海外で勝負すべきだったのではないでしょうか。

もっとも窪田社長は揉めるまで国内事業しかやった事がなかったそうです。海外事業をコア事業には出来なかったのか、やりたくなかったのか、或いは両方かはわかりません。

 

三森のオヤジが生前に描いていた夢は「和食の素晴らしさを世界に広める」って事だったよね?今は亡き総帥がやりたかった事はそれじゃあなかったのかい? コストカッターのイメージが強いコロワイドがそれを続けさせてくれるのかな?

  

多分もう、あのころの大戸屋は二度と戻ってこないんだ。