証券税制の裏技を妄想してみた
確定申告の時期ですね。株が上がって儲かったのは嬉しいけど、払う税金が下がったらなお嬉しいです。改めて納税額を確認したのでしょう。何とかならないかと愚痴の体をした鼻持ちならない相談を最近よく受けます。
何とかはならないですが、裏ワザや制度のバグを探すのが趣味のわたくしがスキームを妄想してみました。
あらかじめお断りしておきますが、わたくしトミヤマは実際にこの手法を試したり実行した訳ではありません。あくまで妄想ですので一切責任は取れませんから自己責任の原則を認識している人だけ読んで下さい。
具体的にはトルコリラの外貨建てMMFを使った手法です。
コロナ禍から始まった世界的な資産インフレによって2020年は証券投資でかなりの利益を上げた方も多いと思います。パンデミックが収束しないと各国政府は財政出動を止めることは政治的に出来なさそうですし、経済的、景気的に中央銀行は金融緩和を続けざるを得ないのではないでしょうか。とすればまだ株式市場は強気なのでしょう。
今後もこの情勢が続き今年も儲かる前提として、税金は少ない方が投資に回せる資金も多くなりますし、残る資金が多ければさらに複利効果で多くなるはずです。もちろん脱税はいけませんが、特定口座での取引に限れば脱税のしようがありません。
特定口座の仕組み
2016年1月1日の税制改正により外貨建てMMFも特定口座での処理ができるようなりました。ご存知の通り特定口座は、「買値と売値の差額を自動計算し、売却時に発生した損益を特定する」個人の納税のための口座です。金融商品取引の際に必ず作らなくてはいけない訳ではありませんが、源泉徴収コースを選択すると確定申告の義務がないので証券取引をしている個人顧客はほとんどの人が「特定源泉」で取引しています。このコースは1月1日から12月31日までの受渡日ベースでの取引を自動的に計算して、利益が発生した場合、利益分の20.315%を天引きし都度つど納税してくれます。また、年の前半で利益確定して売却した際に天引きされた分があり、年の後半で損切りした場合、受渡時に通算して税金を払い戻ししてくれます。12月に損切りの売りを出す人が多いのはこのためです。
なお、複数の金融機関での取引を跨いでは自動的に通算してくれません。
外貨建てMMFとは
外貨建てマネー・マーケット・ファンドは主に証券会社で取り扱っている金融商品で、一言で言えば外貨建ての預金に似ているものです。毎日利息が計算され、月末にその分を乗っけてくれます。買付、解約は国内と海外の両方が営業日の時に可能ですが、買付した日に解約することは出来ません。また、買付・解約ともに決済通貨を選択することができます。つまり日本円から買付するだけでなく、もともと米ドルなどの外貨を預かり金としてプールしておいて、その外貨分を買付し、また解約時に円に替えるかドルのまま解約して外貨預かり金に戻すか、選べるという事です。ちなみに受渡は翌営業日です。
外貨建てMMFの場合、特定口座では買値はどう特定するかと言うと、注文を出す先の証券会社などが提示する「買付の為替レート」を基準にして計算されます。為替レートは通常3つありまして、「中値」「買値 (お客様が買うレート)」、「売値 (お客様が売るレート)」です。ニュースで流れている為替レートはふつう中値です。
外貨建てMMFの特定口座上の買値は、円から買おうが外貨預かり金から買おうが、買付時に提示された「買付の為替レート」です。また同様に解約時に計算される売値は「売りレート」でして、円に戻そうが外貨預かり金に戻そうが同じ売値として特定口座は計算します。たまに気をつけなくてはいけないのは、買値より売値が高くなって、かつ外貨決済で解約した (つまり特定口座上で利益が出た)場合、そして源泉コースを選択している場合には、円で資金を入れておかないと建て替えと言う現象が発生します。天引きされる税金は円でしか支払えないからですが、これが起きると証券会社からガンガン鬼電が来ます。
この外貨MMFという商品は円から外貨に換える外国為替手取引数料 (スプレッドと呼びます)以外には基本的に手数料がかかりません。買付、解約自体の手数料はないのです。買付時に円からその通貨に替えるイニシャルコストはかかるものの、円に戻すなどして買った通貨を替えない限りは追加コストは発生しません。
また通貨ごとに日々金利がもらえます。この商品はその通貨の国が発行している短期国債などで運用しているので、その国の短期金利によって日々金利は変わります。ただしここ数年、特にコロナ禍以後の世界的な金融緩和政策によって金利がほぼゼロになっているため、現在買付可能な通貨は先進国では米ドル建てのみになりました。
外国為替取引について
外貨を仕入れている金融機関が中値にコストを乗せて提示しているのが買値と売値です。このコスト分の差額は「スプレッド」と呼ばれていまして、このスプレッドは金融機関によって結構違います。
新聞に載っている為替相場の欄を見ると、多くは三菱UFJ銀行の「対顧客電信相場」と書かれていると思いますが、あれは三菱が中値にスプレッドを乗っけて「これで売ってあげますよ」と言っているレートなのです。
アメリカドルを例にして、仮に今現在1ドル=100円だとすると
買値=101円 (銀行があなたに売ってあげるレート)
中値=100円
売値=99円 (銀行があなたから買ってあげるレート)
と言う意味です。つまりスプレッド1円という事ですね。
一般的な傾向で言えば、銀行のスプレッドは証券会社の倍くらいです。なお、空港などにある両替屋さんのスプレッドはドルでもびっくりするくらいの高さですが、現金取引という点ではやむなしという事でしょう。
スプレッドは通貨によって全く違います。流通量の多い米ドルは低く、新興国通貨はかなり高いです。
そして現在国内で取り扱っている外貨建てMMFは調べた限り、米ドル以外ではトルコリラ建てと南アフリカランド建てです。
例えば楽天証券を例にして、現在の中値に対してスプレッドが何%になるかを計算してみると
米ドル 0.25円÷104.00円=0.24%
南アランド 0.30円÷6.90円=4.35%
トルコリラ 1.50円÷14.30円=10.48%
つまりスプレッドはトルコリラが高いですね、圧倒的に。このスプレッドの率の高さが重要です。
トルコリラ建て外貨MMFを毎日外貨決済で売り買いすると?
「マルチ・ストラテジーズ・ファンド トルコリラ・マネー・マーケット・ファンド」はトルコリラ建ての外貨MMFです。取り扱っている販売会社は対面大手では日興、ネット大手ではSBIとマネックス、楽天証券があります。
ネット証券大手のスプレッドを比較してみました。
スプレッド (トルコリラ)
マネックス 1.0円
SBI証券 1.0円
楽天証券 1.5円
ここでは楽天証券でこのリラ建て外Mを、10万リラ分を買い、翌日外貨売りしてみたという妄想をします。仮に為替レートは中値14.00円で変わらないとします。面倒なので利息も無視します。
1日目
リラ外M100,000リラ分円貨決済で買付
買付レート 14.00円+1.50円=15.50円
買付代金 1,550,000円
特定買値 1,550,000円
2日目
リラ外M100,000リラ分外貨決済で解約
売付レート 14.00円−1.50円=12.50円
売付代金 100,000リラ
特定売値 1,250,000円
特定損益 −300,000円
3日目
リラ外M100,000リラ分外貨決済で買付
買付レート 14.00円+1.50円=15.50円
買付代金 100,000リラ
特定買値 1,550,000円
4日目
リラ外M100,000リラ分外貨決済で解約
売付レート 14.00円−1.50円=12.50円
売付代金 100,000リラ
特定売値 1,250,000円
特定損益 −300,000円
年間特定損益 −600,000円
5日目以降、無限ループします。すると?
あれ?最初の投資元本より12日目 (6回転)で特定口座上で損金の方が多くなってません?しかも何度でも出来ますよね、これ。もちろんトルコリラの為替変動リスクは有るっちゃあるけど、まあゼロにはならないでしょうし、円に戻さなければ良いだけの事です。払う税金の金額を考えたら有り余るメリットを感じませんか?
いや、いくら儲かってるか知らんけど。
もう少し補足すると、このリラ建て外Mを売り買いする資金は、言わば損失作り専門の別動隊資金です。解約するたびに特定口座上の実現損が発生する (本当は円転した時だけ損益は確定)ので、本隊の思いっきり値上がりして含み益のある銘柄を年内に売却する時には特に有効です。こさえた特定口座の損失と相殺するよう見合い分計算した株数を売って益出しすればよいわけです。そして翌営業日にクロス取引として買い戻したりするのもアリですね。デイトレーダーでも使えるスキームですが、別動隊として資金が拘束されるのが難点ではあります。
もっとも、対面証券で担当者にこれをやってくれと言うのはやめてあげてください。おそらく担当者は毎日手間だけかかるタダ働きに発狂するでしょう。それは労働力の窃盗でありブラック企業同様、人間のしていい事とは言えません。
かつて10数年前まで「株主優待クロス取引」というものが存在していました。例えば航空会社には中間と期末に株主優待として旅客料金を半額にするという優待券が貰えます。権利付き最終日の寄り付きに、現物買いと信用売りを同時に発注しておきますと、売り買い同値で約定しますね。そして権利落日に売り建て玉を「現渡し」で決済します。渡す株式は今日買った現物がありますから。配当金については買った現物については貰えますが、信用売りした分は払わなくてはなりません。つまり配当はプラスマイナス0。しかし、株主優待については信用売りしても払う必要はないのです。つまり僅かな売買手数料を払うだけで価格変動リスクなし、そして貰った株主優待券を金券ショップに持ち込んで換金するとその売れた金額が儲けになるわけです。
ただしこれは2007年くらいに週刊ダイヤモンドが記事にしてしまったために広く知れ渡り、信用売りに際して売るための株を借りる借り賃 (逆日歩)が高騰するようになってしまいました。みんながやると儲からなくなるという良い例です。
このスキーム、税制上細かい事を言うと、本筋では外Mを解約して再度買付するまでの為替変動も計算して損益に計算しなくてはいけないとの事です。でも税務署がそうやってイチャモンつけてきたとして、その正確な損益をどうやって計算し主張してくれるんでしょう?
ともあれ、このようにバグは探せばあるもんですし、その穴を埋めに来るルール。法律とか制度って穴掘り、穴埋めのイタチごっこの歴史なんですよね。
前回の「やさしく解説」シリーズも読んでみてください