持ってる株にTOBがかかったらどうする?②応募か市場売却(やさしく解説シリーズ)

買付者の目的はなにか?

確認するべき事のひとつに「買付する側の真意は何か?」があります。

よくM&Aと呼ばれる言葉ですが、このマージャー・アンド・アクイシジョン (合併と買収)のうち後者の一形態が公開買付 (TOB=テイク・オーバー・ビッド)です。

株を全部買付して完全子会社化するというのは、既存の株主を全員排除するのが目的です。仮に応じない株主がいたとしても、議決権ベースで3分の2を押さえてしまえば残りの株主に反対されても会社法上は押し切ることができます。。スクイーズ・アウトと呼ばれるこのスキームは、株式譲渡に応じない人の持ち分について上場をやめた後に株を現金で返します。

上場廃止後には、買収した会社の利益を全部独占するのも、バラして現金化するのも自由です。誰も文句は言えません。リストラして見栄えを良くしてから再度上場なんてこともよくある話ですね。

 

MBO (マネジメント・バイ・アウト)というのもその一種です。現在の経営者が出回っている株式を全部買い取ってまず非上場企業にします。煩いことを言う株主を追い出してから思いっきりリフォームします。経営者個人は完全買収するほど手ガネを持っている事がなかなか無いため、多くの場合にスポンサーとして金融機関や投資ファンドがバックに付く例が多いですね。経営者自身は究極のインサイダーと言うべき立場ですので、良くも悪くもその会社の事をよく知っています。ですから立て直す時間が短くて済むというメリットがある一方で、TOB価格が安すぎやしませんか?という事例も散見されます。当然既存株主からは不満の声が上がりますし、対抗馬として名乗りを上げる方が現れたりします。皆さんご存知の村上ファンドは古くからの常連さんですし、最近はあまり著名ではない個人株主も対抗して買付者にちょくちょく出現するようになりました。

直近では日本アジアグループや小島鉄工所などがその例になります。

 

TOBが成立しても子会社として上場は続けるという事もよくあります。これは単に経営権を握っても完全子会社化するほどのお金がない場合や、上場させておく方が後々転売しやすそうだとか、いくつかの理由というか個々の事情がある場合です。まあ中途半端この上ないとは思うのですが、「独占的経営権は欲しくないけど言うことは聞かせたい」という目的が多いように思います。これだとTOBに応じても買い取って貰えない事もあるわけで、そのリスクを勘案すると市場の株価は当然公開買付価格には届かないことになりがちです。ただ最初のTOBから数年ののち、忘れた頃に二度目のTOBで完全子会社化というパターンもよくあるのですが。

 

いずれにしても、上場企業を買収するにあたって市場で勝手に買い集めをすることは、実は禁止されているのです。一定の比率を超えて買い進むなら公表しないとダメやで?という決まりがありまして、ちゃんと仁義を切らねば上場企業の買収はできません。

 

公開買付代理人はどの証券会社か

この公開買付を取り仕切って実際に株を買い取る手続きをするのはどの証券会社かを確認します。応募するためにはこのTOB案件の代理人を務める証券会社に口座を持っていないと応募できません。すでに口座を開設している証券会社なら面倒が少し減りますが、ないなら急いで口座設定する必要があります。TOB案件は大手銀行や証券会社が働きかけて成立するM&Aでもありますので、殆どの場合は5大証券と言われる野村、大和、日興、みずほ、三菱のどこかです。代理人証券に口座が出来たら、いま置いてある証券会社に「株式移管してくれ」と連絡して書類手続きをする必要があります。書類手続きとは送られてきた公開買付説明書を読んだ事を確認された後に公開買付応募申込書を返送する必要があります。口座開設から移管までの時間は早くても1週間くらいはかかります。

まあ、応募した方が売却手数料がかからないメリットはありますが面倒なことも確かです。特にデメリットとしてメイン使いの証券口座でないと特定口座の通算ができないという点があります。また決済日 (TOBが成立して、応募株の売却代金が支払われる日)までの1ヶ月ほどの間、資金が拘束されたりする点も難点です。また応募もせず売却しないまま成立後に上場廃止になると、これも特定口座での処理ができなくなり、確定申告で「非上場株式の譲渡所得」として納税の対象になる点は注意が必要です。ですからほとんどの個人投資家はTOB価格の少し下で売却してしまいます。

 

③へ続く

前回の記事